花ちゃんと一緒にやれプリクラだの、やれクレーンゲームだのとはしゃいでいたらすっかり遅くなってしまった。もうほとんど明かりがない中花ちゃんを一人で帰すわけにもいかなくて。

「俺、家まで送るよ?」
「そんな、悪いです!」
「でも暗いしさ。高嶺さんの身になにかあったら大変でしょ?」

主に俺が。花ちゃんにもしものことがあったら俺は多分自我崩壊する、と思う。多分。それでも花ちゃんは強情で(そんなところも含めて好き)、なかなかうんとは言わない。

「ほら、俺も家、高嶺さんと同じ方向だし」

嘘だ。本当は反対方向。でも花ちゃん、こうでも言わないと絶対断るだろうしね。花ちゃんは渋々と言った様子で、それならお言葉に甘えて、と軽く頭を下げる。またふわりといい匂いがした。甘い匂いだった。




それで、今、花ちゃんの家の前何だけど。うん、なんかね、何だろうね。うん、えっと、その、まず。

(花ちゃんの家、超でけぇ)

いやいやこれ広すぎでしょ。大きな門の表札には達筆な字で「高嶺」と書かれていた。見上げるくらいの家のデカさに正直びっくりしている。何だこれ。花ちゃんお嬢様じゃん。しかもガチなほうの。いや、お嬢様にガチも何もないんだけど。

「今日は本当にありがとう、高尾くん。もうここでいいから…」
「ア、ウン。ソウダネ?」

思わず棒読みになってしまう。いやこれは本当棒読みものだわこれ。目が点になっていると花ちゃんの家の扉が開き、中から女の人が出てくる。

「ああ、花!心配してたのよ、門限を過ぎていも戻らないから…」
「か、母さん……」

気付いてしまったことがある。それは花ちゃんの声が、わずかながらに震えているのと、顔から血の気がさっと引いていることの二つだった。

「あら?花、そちらの方は?まさかお付き合いしているわけじゃ」
「違う!高尾くんはそんな人じゃありません!!」

割とショックだ。ま、まあでもこれが普通なんだよね!こんなストレートに言われたことないからちょっと俺がどきまぎしてるだけで!!

「花、貴女最近帰りが遅いわよ。もう球遊びはしていないんでしょう」
「………」
「……あ?おばさん、なんなんすか」

しまった。啖呵切ってしまった。でも今更引くに引けない。ぐっと言葉を一気に吐き出す。

「花ちゃんのお母さんなんすよね?なら、普通娘の好きなものくらい分かるんじゃないんすか」
「た、高尾くん……!!」

いよいよ泣き出しそうになる花ちゃんを見てはっと我に返るも時既に遅しだ。花ちゃんのお母さんは顔を真っ赤にさせながら「もううちの子に近づかないでちょうだい」と言って、彼女の手を引いて家の中へ入ってしまった。や、やってしまった……。


140617.