あれ、またなくなってる。筆箱の中を開くと昨日まで確かにあったお気に入りのシャーペンがなくなっていた。クルトガの、ピンクの地に白い花柄が散りばめられたかわいいやつだったのに。お気に入りなだけにショックはデカい。そしてなぜだか最近、私の身の回りでは日用品が忽然と姿を消すのがトレンドになっている気がする。一昨日はキーホルダーがなくなっていたし、先週はパステルカラーの淡い水色のシュシュが、その前は星がついているヘアピンがなくなっていた。どれもこれも、私のお気に入りばかり。
自分の物持ちの悪さに失望しながら思わず溜息を零してしまうと、左隣の東堂くんにどうしたのだと問われる。

「……また失くしちゃって」
「またか?今度は何を失くしたんだ」
「シャーペンなんだけどね。クルトガで、ピンクの地に白い花柄があるやつ」

お気に入りなんだ、と小さく呟く。東堂くんは優しくて、私の失くしものを一緒になって探してくれる。シュシュもヘアピンも、東堂くんがどこからか見つけて来てくれて今はちゃんと私の手元にある。東堂くんはふむ、と腕を組み、しばらくしてから自分の筆箱を開ける。

「とりあえず、今日は一日これを使うといい」
「え、わ、悪いよ。それに私、シャーペンもう一本あるし、」
「いいから使うんだ」

無理矢理私の手の中に押し込められた、男の子らしい無地の青いシャーペン。ありがとう。お礼を言おうと彼の顔を見上げるとどことなく、雰囲気がいつもの東堂くんでない気がした。

「……東堂くん?」
「お前は実に幸せだぞ。何せ俺のお気に入りのシャーペンを使えるのだからな、ワッハッハッハ」

不安になって尋ねたらいつもの東堂くんの返事が返ってきて、安心した。でもなぜだか胸騒ぎがする。なんでだろう??







俺は、俺の右隣に座る彼女が好きだ。だがなかなか上手く話せず(トークも切れて、山も登れる。加えて美形である、スリーピングビューティーのこの俺がなんたるザマだ!)、機会を逃してばかり。いい加減諦めようとしていたある日。彼女が机の上に消しゴムを忘れていったのに気が付いた。慌てて彼女を追いかけ、それを渡すとありがとう、と少し照れたようにはにかんだ。その顔がたまらなくかわいくて、俺はまた彼女が好きになった。

−−私、失くしもの多いんだ。だから、助かっちゃった

へらりと笑う彼女をよそに、俺はあることを思いついた。我ながらいい案だと思った俺は、それを実行するためあの手この手で彼女のお気に入りのものをリストアップした。キーホルダーにシュシュ、ヘアピン、シャーペン。ハンカチ、ヒールのついたパンプス、ネックレス、エトセトラ、エトセトラ。それらをこっそり彼女の部屋から盗み出し(まだどこにあるか分からなくて盗めていないものも多数ある)、翌日元気のない彼女に話しかける。二、三日経ってからそれを返せばいいだけだ。何の問題もない。結果的に俺はちゃんと彼女に返しているのだから。


朝、教室に上がると彼女はもう席に着いていた。筆箱を開いて困ったように眉根を下げている。どうしたのだ、と聞いてみるとまた失くしちゃって、と照れたようにはにかむ。

「またか?今度は何を失くしたんだ」
「シャーペンなんだけどね。クルトガで、ピンクの地に白い花柄があるやつ」

知ってる。それは今、俺の部屋の引き出しに入っているのだから。昨日、彼女が寝てからこっそり部屋に忍び込み、筆箱から取り出したのだから。ふむ。考えこむように腕を組み、しばらくして自分の筆箱を開く。中から取り出したのは、つい最近買った、隠しカメラつきのシャーペンだ。

「とりあえず、今日は一日これを使うといい」
「え、わ、悪いよ。それに私、シャーペンもう一本あるし、」
「いいから使うんだ」

無理矢理に彼女の手の中にそれを押し込む。今まで盗んで返した彼女のものにも小型ながらに性能のいい隠しカメラをつけてあるんだ。最も彼女はそれに気付いていないようだが。俺はそんな彼女が、愛おしいとさえ思う。どうかこのまま俺に気付かず、俺の気持ちに気付いてくれ。

140629~140817.