01 密葬

佐々野が死んだ。その知らせを受けたのは、大学生活が始まって間もないころだった。信じられなかったのは、別に俺と彼女の仲がそんなによかったからとかではなく、目の前に佐々野奏を名乗る女がいたからだ。

「なあ、お前死んだんだとよ」
「知ってますよ。わたし、荒北さんに会いに来たんです」

はあ?って感じ。そもそも俺の記憶には佐々野奏なんてやつ、全然全く、これっぽっちもいやしないのだった。やけに大真面目な顔をした自称・佐々野奏は台本を読むかのように予め用意されていた台詞らしきものを堂々と話しはじめた。

「1、わたしは神様にお願いして荒北さんに会いに来ました。2、期限は一週間です。3、もし荒北さんがわたしのことを忘れていた場合、その期限内に思い出さなければならない。以上です」
「………は?」

いやいやいや。以上です、じゃねえだろ。なんだそれ。つーかいきなり現れて死人ですってだけでもわけわかんねえのに、その上神様だの、一週間で自分のことを思い出せだの、なんなんだよ。

「でも、その様子だと荒北さん、わたしのこと忘れてますね。と、いうことで自動的に3が行使されます」

混乱する俺をよそに、自称・佐々野奏はとんとん拍子に事を進めていきやがる。「ちょっと待てよ!!」ようやく整理がついた脳内を回転させながら彼女の肩に触れる。が、俺の手が掴んだのは自称佐々野奏の肩ではなく空気だった。それでも気にせず彼女に詰め寄った。少し悲しそうな顔をした彼女と目が合う。

「お前、いきなり現れてなんなんだよ。神様ってなんだ。一週間のうちに思い出せって、何を思い出しゃあいいんだよ。それよかお前、死んだんじゃねえのかよ」
「質問は一個にまとめてほしいですっ」

元気よく手を伸ばし主張したあと、息をついた。

「…神様というのは。ゴッドでありメシアでありキリストでありアッラーのことです」

そんな長い前置きをして言うことには、そんな神様に誰かと一週間会わせてもらえる約束をしたらしい。仮にその会わせた相手(この場合は恐らく俺)が自分のことを忘れていた場合、その一週間のうちに思い出さなくてはならないらしい。思い出さなくても特にこれといった影響はないとのことだ。つーかノリ軽いな、神様。そんなんでいいのか、神様。

「というわけで、ここにいるわたしはズバリ幽体ですね〜。荒北さんにしか見えませんし、声も聞こえません。まあ、霊感の強い人は別ですが」

相変わらずにこにこしながら自称・佐々野奏は続ける。信じてくれました?上目遣いを使われても、こうもわけのわからないこと尽くしだとはいそうですかと受け入れるわけにもいかない。ともあれ一週間、俺と佐々野奏(自称幽霊)との生活が始まりを告げた。


140824.