何を言ったかと思えばどうやら真波は小寺の地雷を踏んでしまったようだ。果たしてどうすれば二人を元のように戻せるか。何かオレ、まずいこと言っちゃいました?真波は顔面蒼白といった感じになりながら聞いた。これは、先輩として素直に「そうだ」と言うべきだろうか?それともオブラートに包み「そんなことはないぞ」と言うべきだろうか?
両者のどちらがいいかを考えていたはずなのに気が付くと俺は「かなりな」と口走っていた。


−−時に真波、フクと小寺が幼馴染ということは知っているな
−−はい


そう。ここまでなら真波でも分かる。真波だけじゃない。それは自転車部全員が承知のことだ。だが問題はこの次だ。何故小寺がフクに対抗するか。

高校生といえど小寺は女でフクは男。小寺だって馬鹿じゃない。体力的にも、技術的にも決して勝てるわけではないと分かっているはずだ。それなのに、小寺がフクに対抗する理由。真波はちょっと考えるような素振りを見せながら答える。


−−福富さんと対等になりたい、から?
−−そうだ。だがそこにはある問題が生じる。それが何か分かるか?
−−わかりません


わからない?嘘だろう。確か真波にも幼馴染がいたはず。その子を例に上げ話すとようやく何かに気付いたようで、性別ですか、と小さく呟いた。俺は頷いた。
小寺本人がいないところでぺらぺら話すのはどうかと思うが。福を横目で見る。気付いた様子はない。だがバレてはならんと用意周到な俺は少し声を潜ませた。


−−小寺は自分が女であることに嫌悪している


福を横目で見る。まだ大丈夫か。真波に向き直り、これは俺の憶測にすぎないが、と前置きして話しはじめる。どうか福に聞かれていませんように。福が小寺の本当の気持ちに気付きませんように。切に願いながら俺は口を開く。


知られてはならんのだ、福には。小寺が福のことをどう思っているかなんて、知られてはならんのだ。否、知らせることなんてないのだ。
新開も荒北も、そして俺も。小寺が福に対してどう思っているのかは、福以外誰もが知っていることだ。だが誰もそれを福本人に知らせようとはしない。福は知らなくていいのだ。


福からの視線を感じはたと我に返った。結びの言葉を適当に取り繕ったが果たして福に気付かれてしまっただろうか。小寺が福に対し、どう思っているのか気付かれてしまっただろうか。


140518.