小寺は福の幼馴染だ。だが小寺と福の「幼馴染」という関係は従来のものとは全く違っている。それに気付いたのは入部してからすぐだった。


はじめ小寺を見たときの印象は「俺ほどではないけれどなかなかの美形」。その一言につきた。顔も性格も身長も申し分ない。ただ、一つ難点を上げるとすれば体力がないことだった。

小寺が女であると気付いたのは入部から一週間した日のこと。部室で着替えようと服を脱いでいる最中の彼女を見てしまったことからだった。女だったのか?目を丸くさせそう言うと小寺は耳まで真っ赤にさせて、泣きそうになりながら頷いた。成程、道理で体力がないわけだと一人合点した(後から入って来た福に視線で殺されそうになった)。


小寺はその容姿と隼人にも負けないような性格のせいか、やけに女子にモテた。女子が女子に人気なんて漫画でしか読んだことなかった俺はひどく(都市伝説か何かかと思っていた分、さらにだが)驚いた。しかも小寺の場合、新開とは違い計算しつくしたわけではなく素で女子がきゅんとするようなことをやってのけてしまうのだ(俺も危うかった!)。



入部してから三年間、小寺は部活の時間、福に毎日勝負を挑んでいる。結果はいつも同じで、負けるのは決まって小寺だ。そうなると彼女は決して女子がこなせるようなメニュー量ではないのに加え、外周やローラーを始める。
夜辺りが暗くなっても平坦な道を一人走っていたり、オールラウンダーになるためヒルクライムをしていたりするのを俺は知っている。でも恐らくそれは俺だけでなく、部員全員が知っていることなんだろう。


本来なら俺が小寺にボトルとタオルを渡す係なのだが彼女が嫌がっていることをしてしまいそうで、その役を真波に預けた。今ではすっかり真波のほうが板についてる。
やけに楽しそうに話している真波と小寺。うん、うん、素晴らしい先輩と後輩の図だな。まあ、俺と小寺のほうが画になるがな!!

「ナァニ小寺チャン見てんだヨ、東堂。福ちゃんに言いつけんぞ」
「荒北か。いや、なに。小寺を見てみろ。良き先輩と後輩の図ではないか!!」
「うっぜ」
「うざくはないな!!」

ワハハハハ、といつものように声を張り上げて笑う。視界の片隅にはっきりと真波たちを入れ、耳をそばだてるのを忘れないで。また真波が小寺の癇に障るようなことを言わなければいいのだが。


140517.