そんなことが小寺さんとオレとの間で起こってから一週間。オレと二人で一緒に登っていた山は、相手が東堂さんだったり黒田さんだったりところころ変わりはじめた頃だった。



−−真波、小寺と何かあったのか?

東堂さんに言われちょっと戸惑った。あるといえばあるしないといえばない。そんな歯切れの悪い答えを出すと東堂さんは困ったような顔をする。

−−例えばだ、真波。小寺に何か、女性差別的な発言をした記憶はあるか?
−−あ、

それならと思い出したのは最後に小寺さんと山を登ったときのこと。そうだ、確か小寺さんはオレがそれを言ったから……。あの、と口を開いた。

−−オレ、小寺さんに、女の子なんだから頑張らなくてもいいって、言っちゃいました
−−やはりか

やはりか。やけに重々しい東堂さんの口調に頭の中が真っ白になる。何かオレ、まずいこと言っちゃいました?恐る恐る聞くとかなりな、と深刻そうな表情をされる。

−−時に真波、フクと小寺が幼馴染ということは知っているな
−−はい
−−では、小寺が何故フクに対抗するのかは?
−−え、と……、福富さんと対等になりたい、から?

そうだ、と東堂さんは深く頷く。そこにはある問題が生じるのだが、何だかわかるか。わかりません。何、わからない?目を丸くさせた東堂さんがひどく不恰好に見えた。

−−お前にも幼馴染がいるだろう。そいつを思い浮かべろ。決定的な違いはなんだ?
−−……

オレと委員長の、決定的な違い。恐らくはそれと関わるであろう、オレの発言。考えなくてもすぐ分かる答えだ。「性別ですか?」。大きく頷いた東堂さん。

−−小寺は自分が女であることに嫌悪している
−−え……

これは俺の憶測にすぎないが、と前置きして東堂さんは話した。

−−福に置いていかれる焦り、福と対等になれないかもしれない不安、福が遠くへ行ってしまう恐怖……、今の小寺を突き動かしてるのはそういった類の感情ではないだろうか


小寺さんの話をしているのに、オレの頭に浮かんだのは何故か委員長だった。他人事じゃない気がしてどきりとした。東堂さんはさらに続ける。

−−福と小寺は幼い頃より互いを高め合い、競い合ってきたと聞く。そんな、今迄ライバルのような存在がいきなり特化しはじめたら戸惑うだろう?俺なら戸惑う。追いつこうにも男女の差というものがまとわり付く。小寺は今、それを越えようとしているのだ




「真波、どうした?」
「えっ、あっ、あ…」

急に小寺さんに顔を覗き込まれる。何でもないです。へらり笑うとそうか?と小寺さんも笑う。

あのあと、東堂さんに「とりあえずは小寺に謝るんだな!」と言われた。その言葉通りに謝って、小寺さんとはまたこうして走れてる。


余談だけど委員長に「オレは委員長の傍にずっといるから」と言ったら「バカじゃないの?!」と返されてしまった。何で?


140514.