それから私は学校を数日休んだ。その間私は情けないことに延々と泣き続けた。中学の卒業アルバムを引っ張り出しては泣いて、寿一のことを想っては泣いて、福富に言われたことを思い返しては泣いて、机の上にある写真を見ては泣いて、好きだった寿一のことを考えては泣いて。我ながら女々しいと思ったし、よくも福富のことでここまで泣けるものだと関心してしまった。結局、私がしていたことは全部無駄だったのだ。


涙を流しきって、久々に学校へ行くと隼人が何も言わず頭を撫でてくれた。不覚にもその優しさにまた涙が出そうになった。
友人たちからはおかえりのハグ(ちょっとよく分からなかった)をされたし、休んだ分のノートや配布物をファイルに挟み渡してくれた。

廊下で福富とすれ違っても極力目は合わせないようにした。おはよう、と挨拶されたときはどうしようかと思ったが下を俯いて無視をした。
隼人の傍にいることのほうが多くなり、今迄以上に距離が近くなった気がする(気がするだけで本人はそんな気がないのかもしれないが)。

部活には出ることはなかったが福富は何も言わなかった。長い髪を見る。いつかの約束も、きっと福富は忘れているのだろう。鏡を机の上に置き、ハサミを持つ。よし。私は髪を切りはじめた。




「隼人、おはよう」

寮の共同スペース。隼人は朝練が終わったばかりのようだった。大きな目が少しだけ見開かれる。似合っていないのだろうか。それとも切り過ぎたのか。どきどきしながらどうした、と尋ねてみる。

「あ、あー…っと……。か、髪切ったんだなーって、思って……」
「似合わないか?」
「いや、似合ってる。けど、」

伸ばしてたんじゃないのか?そう聞かれてはじめて、自分は周りに髪を伸ばしていた本当の理由を言っていないことに気付いた。

「…必要なくなったんだ」
「……」

そう、必要がなくなったのだ。伸ばす意味も理由も。ふと脳裏に過るのは好きだった寿一の姿。何だ、まだ忘れていないのか。いい加減諦めればいいものを。

「今日は部活、来るのか?」
「ああ、その予定だ」
「そうか。寿一もきっと喜ぶ」

本当に?尋ねようとした言葉を呑み込んだ。隼人を困らせることだけはしたくなかった。曖昧に微笑んで、私は学校へ向かった。



「三年、小寺入ります」

一礼して部室に入るのはいつぶりか。辺りがざわつくのがわかる。私が制服のまま来たからか、はたまた髪を短くしたからか(恐らく後者だろう)。忘れ物はしていない。昨日のうちに書いた退部届もしっかり持っている。あとは福富に渡せばいいだけだ。きっと受け取ってくれる。私の予想通り、彼は受け取ってくれたのだから。


140621.