「ふざけるな!!」

あまりにも甲高い自分の声に驚いた。耳触りで、自分ではふざけるなと言ったつもりだったが何と言ったか分からなかった。じわりと視界が歪む中、福富が驚いていた。

「何でそんなことを言うんだ。私が女だからか?私が男だったら言わなかったんだろう?どうなんだ、寿一!」

自分の口でそれを言ったらぞっとした。福富の胸倉を掴もうと手を伸ばすと隼人に取り押さえられてしまった。必死にもがくも男子に力差で勝てるはずもなく、また瞳からぽろぽろと涙が溢れてしまう。それが悔しくて悔しくて、福富を睨みつける。結局のところ、福富は知らなかったんだ。私が彼に追いつこうとしていたことも、そのための努力も、何もかも。



遠くで荒北の声が聞こえる。もう私の耳には何も届かなかった。気がついたら寮の自室にいて、はたして私はそこまで一人で行ったのか、誰かと一緒に来たのかは皆目検討がつかなかった。



「幼馴染だから何でも分かる」という過信が私のどこかにあったのだろう。何が分かるというのだ。福富に、私の何が。私に、福富の何が。何も分からないじゃないか。知ったようなフリをして、私も福富も、お互いのことを知らなかったんだ。それを私は知ったような顔をして。
今迄福富のファンだと名乗る子から嫌なことを言われた。されたくないことをされた。それでも私が我慢出来たのは、私が福富のことを誰より知っているという過信があったから。それがすべて、今、この瞬間にがらがらと崩れ去った。頭の中は真っ白なのに、目の前は真っ暗だった。

考えれば考えるほど涙が止まらない。布団の上に寝転がり、枕に顔を押し付ける。しばらく顔は上げられそうになかった。
誰にも会いたくなくなった。会うにしても誰に会えばいいのか分からない。机の上に置いた写真立てを見る。その中には私の好きだった寿一と、私と、隼人の三人が写っていた。

寿一。もうこの世にいない寿一。いなかった寿一。私が作り上げていた寿一。愛おしさと悲しさと悔しさで胸がいっぱいになり、また泣いてしまった。今、誰か一人に会えるとしたら寿一に会いたかった。でもそれは叶うことはない。寿一はいなかったのだから。そこにいたのはいつだって福富で、その福富の中に寿一はいなかったのだから。


泣いて泣いて、忘れてしまおうとした。でもできなかった。私と福富は一晩泣いただけで忘れてしまえるような関係ではなかったのだから。気付いたのがさっきなんだ。なんて格好悪い。どんなに自嘲したところで私の中の福富は消えることはなかった。


140620.