目が覚めるとやけに頭が重く視界がぼんやりした。頭痛がする。昨日雨が降っていた中一人練習に明け暮れていたからだろう。風邪でも引いたかもしれない。身体がだるい。今日は今日は学校休む。淡白に打ったそのメールを親友に送りもう一眠りした。せめて部活には出よう。寿一を取り戻さなくてはいけない。それができるのは私だけだから。




次に目を開けると大分身体が軽くなっていた。気分もなかなかにいい。なんだ、風邪じゃないじゃないか。ちょっと早い気もするが問題ないだろう。どうせ寮から部室までは距離がある。着替えてぴょん太のところにでも行こう。髪を一つに縛ってぴょん太の元へ向かった。


「ぴょん太ー」

名前を呼んでやると耳をピンと立てる。なんてかわいいのだろう。こんなところ誰かに見られでもしたら恥ずかしくて死んでしまう(キャラじゃないからな)。抱き上げると抜け毛の季節なのかふんわり毛が舞う。

「動物が好きなのか?」
「っ、隼人」

うわあ、見られてしまった。よりによって隼人に。何だろう、隼人には見られたくない姿ばかり見られてる気がする。これは違うんだと必死に言い訳を探す。すると新開は薄く微笑んで、私の隣に腰を下ろした。

(近、い……)

こんなに隼人と近いのは東堂に「兄妹のようだな」と茶化されたとき以来だ。意識すると顔に熱が集まるのが分かる。ぴょん太を見つめるように顔を俯かせる。バレてないよな?

「…?、陽香莉、おめさん…」
「な、何だ?言っておくが、ぴょん太は私が拾ったんじゃないぞ!」
「…違う、違う。そっちじゃなくて何か、顔赤くね?」

ぎょっとした。気のせいじゃないのか。口をついて出た言葉はそれだった。



ぐらり揺らぐ視界。目の前の真波の姿がぼんやりとする。頭がぼんやりする。ハンドルを握る手に力が入らない。寿一の背中はもう見えない。ああ、くそ。何だってこんなときに。だめだ、進め。進め。寿一に追いつくんだ。私が寿一を取り戻すんだ。彼を、福富のままいさせてたまるか。地面が近づく。落車、そう思ったときには既に落車していた。がしゃん、と派手な音を立てた。近くも遠くも感じるところから隼人の声がする。

「陽香莉、大丈夫か?」
「隼人、すまない。寿一は……?」

ぼんやりした意識がはっきりしだした頃、隼人は尋ねた。私のことなんてどうだっていい。どうだってなってしまうのだから。寿一は、どこだろう。

「…今、尽八が呼んできてる」
「そうか…」

果たして寿一は来てくれるだろうか。そこではじめて、隼人に手を握られていることに気付いた。隼人の手を握り返す。

「お願いだ、隼人。寿一と走らせてくれ。支障はないから。頼む」
「……陽香莉、」

何で私はこうも弱い。


140617.