オールラウンダーになりたかった。だから苦手な山も登った。最初に真波に言ったのは、彼なら女だからと言わなさそうだったから。それが違うということに気付けなかった私は馬鹿なのだ。

初夏も近付いてきた日。校門付近で真波と会ったのが運の尽きだった。小寺さん、いきましょう!有無を言わさず真波に誘われた私はその日はじめて授業をサボった。
走る、走る。引くのは真波だったけれどとにかく速い。それでも、福富はもっと速いのだ。ついていくのだけで精一杯だった私に、真波は言った。さも平然と、言ってのけたのだ。その言葉に、私の息の根を止めるほどの影響力があるとは知らずに。

−−真波なら絶対言わないって、思ってた

我ながらひどい先輩だと自嘲してしまった。それからは相手が黒田だったり東堂だったりした。黒田と一緒に走るのは気分がよかった。ペースを私に合わせてくれていたからだろう。なんとなく申し訳なくなり、東堂に頼んだ。その際、少し茶化されたような気もしたがそんなの気にする間もなかった。

東堂はとにかくよく喋る。隼人からなんとなく聞いてはいたけれど、そんなに喋るのかと驚いてしまった。


フクは幼馴染なのだろう?幼い頃はどうだった?小寺はいつからロードをはじめたんだ?誰の影響だ?フクか?やはりフクなのか?しかし幼馴染というものはいいだろう。俺にはそういった相手はいないのだが、幼い頃よりお互い切磋琢磨して育つというものは憧れるぞ。ところでフクのことはどう思っているのだ?やはり好きなのか?何、照れることはないぞ。幼馴染同士が好き合うというのは世の常だからな。


初日はお互いだんまりだったが、一緒に走り出した二、三日後にはすでにこれだ。さすがに全てに答えるわけにもいかず、答えられるところだけ掻い摘んで答えた。あまり知らない相手に話すのは嫌だったのだが、東堂になら悪い気はしなかった。気がつくと私は寿一に対して思っていることを洗いざらい東堂に話していた。


寿一は確かに幼馴染だが、恐らく私にはお前が考えているような感情は一切ない。消した、というべきか。寿一と私は幼馴染ではなくて腐れ縁なんだ。そして何より、寿一はそれを望んでいる。部活のときだけだがな。身勝手なものだよ。簡単に幼馴染にも、腐れ縁にもなれる。寿一は自分の都合で、私との関係を勝手に変える。まあ、私も似たようなものだがな。東堂、お前は幼馴染を憧れると言ったが実際は嫌なものだよ。長年一緒にいると相手の考えが分かり、知りたくないことまで知ってしまう。私はお前が羨ましい。本当は女であることも嫌なんだ。真波に面と向かって言われて、ようやく自覚した。なあ、東堂。私は何で寿一の幼馴染で、腐れ縁で、女なんだろうな。


140617.