高校に入るといよいよ福富との差は広がるばかりだった。それどころか彼のファンクラブや親衛隊を名乗る人物たちに集中的に攻撃された。寿一のこと何一つとしつ知らないくせに。寿一の表面しか見てないくせに。私はそんな彼女たちが大嫌いだった。


女子の自転車部があればよかったのに、箱学には男子の自転車部しかなかった。仕方がないと男子に混ざり練習をした。部活がある度福富に勝負をした。結果は連敗続きだった。福富に負けたくないから普段の練習に加え暇な時間さえあれば全てロードにつぎ込んだ。でも福富はそんな私の努力を全て無に帰す。


私は「腐れ縁」の福富が大嫌いになっていた。


部室で着替えているときに先輩たちが入ってくることもあった(東堂に関しては見られた挙句女だったのかと言われた)。平然とした顔をしていたけれど内心は嫌だった。「幼馴染」の寿一が助けてくれる。そう信じていたのに。

−−大丈夫だ

私がそう言ったからか、その日以降部活中、私の目の前に「幼馴染」の寿一が現れることはなかった。


唯一「幼馴染」の寿一が現れたのは普段の学校生活だった。寿一の言う「あれ」が分かるのは世界広しとえど私だけなのだ。学食でも定食で私の好きなものがあったら分けてくれるし、私も寿一の好きなりんごがあればそれをあげた。

部活帰りに寄ったファミレスでも、私が寿一の好きなものを頼み、寿一が私の好きなものを頼んだ。出てきたそれを二人でシェアしたらなぜか東堂に「カップルか!!」と言われてしまった。



−−小寺チャンだっけ?もう福ちゃんの前うろつくなヨ

ガンと後頭部に衝撃が走った。最近寿一の傍にいる、細身の男に言われた最初の言葉がそれだった。何も知らないくせに。何一つ、知らないくせに。思わずさっき飲み干したジュースの缶をそいつの頭めがけて投げた。

まさか当たるだなんて思わなかったから。それに、目が合ってしまえば私のほうも何も言わないわけにはいかなくて。

−−なにも知らないくせに!あんただって寿一の前うろつくのやめなさいよ、この元ヤン!!
−−……アァ?

言ってしまった。顔からさあっと血の気が引く。でも今更引き下がるわけにも行かず、私を上から下までじっと見る彼を睨む。
いつも遠目で、なんとなくでしか見てなかったけどよくよく見るととにかく細かった。あと下睫毛が長い。だめだ、こいつのほうが女の私より確実に綺麗な顔立ちしてる……!!
それでも何も言わないのは癪だった。


−−あんたはいいわよね、男なんだから!!


意地汚い欲望と、願望と、少しの嫉妬を交えた言葉を吐き捨て、私はその場から逃げた。



140616.