荒北に頼んだらあっさり断られてしまった。陽香莉との勝負のときは毎回断られる。つーか福ちゃん、荒北は続ける。

「小寺チャンに優しくとか出来ないワケ?」
「陽香莉に優しく?」

首を傾げる。普段は優しくしてるつもりだ。重いものを持っていたら代わりに持ってやったり、学食で頼んだ定食で陽香莉の好きなものがあったら皿に乗せてやっている。となると、部活での陽香莉への態度のことだろうか?荒北を少し見つめると溜息交じりに言った。



「小寺チャン、女の子なんだって。福ちゃんは男だけど、小寺チャンは女の子なのォ。力差とか、体力差とか、女の子の小寺チャンのほうが弱いに決まってんじゃん」



分かっていたはずだった。知っていたはずだった。そんなことは、中学に上がったあの時から。オレに段々と追いつかなくなっていく陽香莉。胸は膨らみ、日に日にオレとは違う身体になっていく陽香莉。全部全部、理解しているつもりだった。分かっているつもりでいた。なのに、結局オレは分かったようなフリをして、何一つ分かっていなかったのだ。荒北に言われたことによりそのことが重々しく胸に留まる。透明な水に墨汁を垂らしたように染み渡った。夢なら醒めてくれと、縋るように祈るオレは強くなんかない。荒北はさらにオレを追い詰めるように続けた。



「福ちゃんさァ、今日の新開のあれもそうだけど。あんま素っ気ない態度ばっかりとってたら誰かにとられちゃうヨォ?」



誰かにとられる。それもいいか。いずれにせよ、オレに陽香莉は幸せに出来ない。オレが陽香莉の傍にいてはきっと傷ついてしまう。それなら、いっそ、





「福!小寺が落車した!!」

言いに来た東堂に目を丸くする。そんな、まさか。陽香莉が。戻らないという選択肢もあった。もうオレは、陽香莉のことを好きではないのだから。だけど。だが。でも。しかし。一瞬で考え、弾き出された答えは残酷なものだった。だがそれを実行に移したのは他の誰もなく、オレだった。


オレはこれから陽香莉の「幼馴染」ではなくなりにいくのだ。ひょっとしたらそのことでオレと陽香莉の関係は「腐れ縁」でもなくなってしまうかもしれない。でも、それでいい。きっとそれがオレにとっても、そして陽香莉にとってもいいはずなんだ。ケジメをつけなくてはならない。いつまでもだらだらと、こんな感情を引きずっていてはいけないのだ。


140614.