新開の陽香莉を見る目が違うことに気付いたのはいつ頃だったろう。分からないが最近のような気もするし、そうでないような気もする。陽香莉も陽香莉で新開に好意を寄せられていることを知ってか知らずか(恐らく後者だろうが)、新開と仲がいい。

いつしかそんな二人を見て東堂が「まるで兄妹のようだな!」と言っていた。成程二人は確かに兄妹のようだとそれに同意した。兄妹か、と新開は復唱した。次の瞬間、新開は陽香莉の肩を抱いていた。


−−恋人には見えないか?


ピシリ。何かに罅が入るような音がした。陽香莉を見ると耳まで真っ赤にさせて目を泳がせていた。その泳いだ目がオレの目と合った。何秒合ったかなんて分からないが5秒近く見つめ合っていたと思う。その後、恥ずかしげに顔を俯かせる姿を見て全てを察した。ああ、陽香莉は新開が好きなのか、と。陽香莉の口から新開の名前は一度として出てきたことはないがそれでもわかってしまった。オレは失恋をした。

それでもオレは陽香莉のことを早々簡単に忘れることは出来なかった。校内で会ったら誰よりも先にオレの名前を呼んでくれたし、何よりずっと傍にいたのだ。陽香莉のことは、誰より知っている、はずだった。でもそれは恐らく間違いで、オレは「誰よりも陽香莉の傍にいた」というだけで陽香莉のことをすべて知った気になっていたんだろう。だからこそ、オレは今、こんなにも陽香莉が怖いのだ。



「俺、陽香莉のこと好きだぜ」

何の脈拍もなく新開はそう言った。心臓が締め付けられるような気持ちになった。息が上手に出来ない。何か、何か言わなくては。

「そうか」

慌てたオレの口から出たのは素っ気ない、そんな言葉だった。自分でも驚いたがきっとこれがオレの本心何だろうと思った。陽香莉のことを好きだと言っておきながら、オレは陽香莉のことが嫌いだったのだ。今更気付くなんてと自嘲した。

「そうか、って福ちゃん……、それだけなワケェ?」

それだけ?一体他に何があると言うのだ。オレは陽香莉が嫌いなのだ。それが分かれば十分だった。



「福富、頼めるか?」

だがオレの意志はオレが思っていたより弱かったらしい。陽香莉を見ると嫌いという感情がガラガラと崩れ愛しいと思う感情が現れた。丁度外周に部員総出で出向くところだったから構わないと答えてしまった。荒北に引いてくれるか、聞きに行かねばな。


140613.