福ちゃん幼馴染なんて居たのォ?俺聞いてないんだけど。少し苛立ったように尋ねてきたのは荒北だった。一瞬誰のことを話しているのか分からなかった。「幼馴染」で頭の中を少しだけ探したが誰も該当する人物がいなく、しばらく考えこんでしまった。ちょっと考える間をあけてから、ようやく荒北の言う「幼馴染」が「腐れ縁」である陽香莉のことだと気付いた。言ってないからな、と短く答えるとふゥん、と興味のなさそうな声が聞こえた。

少しだけ、ほっとした。陽香莉は荒北のような性格のやつが好きだとクラスの女子が話していた(本心はどうなのか分からない。聞きたいのは山々だが肯定されてしまったときどう反応すればいいのか分からない)のを聞いてしまったからだ。



−−福ちゃん、その子のこと好きなのォ?

俺はその問いに、どう答えたのだろう。いまいちよく覚えていない。だがその後やたら恥ずかしくなり陽香莉を意識してしまった記憶があるから恐らく肯定したのだろう。


それとほぼ同時期に、陽香莉から寿一の傍に最近いる細身の男は誰だ?と聞かれた。荒北のことか?尋ねると知らないが、と口を尖らせて続けた。

−−私はどうやらそのアラキタとやらに嫌われているらしい
−−…どういうことだ?

話を聞くと荒北は陽香莉にオレに近付くなと言ったらしい。眉を下げた彼女の声が少し高くて恐怖を覚えた。早く会話を切り上げたいと、荒北にはオレから話しておくからと言って陽香莉との会話を終了させた。



その日の部活上がり。荒北に陽香莉との関係をそれとなく聞いてみた。荒北と陽香莉が仲良くなるのをイヤだったくせに、オレは荒北に仲良くしてほしいと言ってしまった。矛盾しているというのは重々承知だった。

荒北はというと、一瞬ぽかんと口を開けていた。次の瞬間には口を開き、オレに言った。父親かヨ、と。父親。そんな風に見えるのだろうか。頭の片隅で思いながら幼馴染だが?そう答えておきながら我ながら自嘲してしまった。都合よく「幼馴染」にも「腐れ縁」にもなれるものだ。きっとオレは陽香莉のことを好きだと言っておきながら、彼女のことをしっかり考えていないんだろう。陽香莉のこととなると、どうやらオレはとことんダメになってしまうようだ。ふと陽香莉と目が合うも、そのまま視線を逸らされてしまう。学校だったら微笑んでくれるのに。そう思ったら何だか無性に悲しくなってしまった。


140613.