−−陽香莉がついてきてないぞ。いいのか寿一

新開にそう指摘されたことにより、さらにオレの中の恐怖が増した。いい。気がつけばオレはそんなことを言っていた。いい?よくないだろう。違うんだと弁解しようとしたら新開が幼馴染だからってそんな言い方ないだろ、と怒鳴る。お前に一体何が分かる?ずっと傍にいた幼馴染の体力が落ち、胸は膨らみかけ、女の身体に近付いていくことの恐怖が、お前に分かるのか?
売り言葉に買い言葉とはまさにあの時のオレと新開のことだろう。はじめて新開と喧嘩をした。結果的に新開は陽香莉と一緒に走り、オレは一人で走りはじめた。


高校に上がると陽香莉とオレとの差は広がるばかりだった。それでも挑み続けてくる陽香莉を邪険に扱うことはできなくて、結果的にオレはまた性懲りも無くズルズルと「腐れ縁」を続けていた。


陽香莉は女子の自転車部がないからと男子に混ざって練習に参加していたがオレは内心はらはらだった。どんな構図であれ、男所帯に女が一人。これにより起こり得ることなんて意図も容易く理解できてしまう。現に陽香莉はかつて、着替えている一部始終を東堂に見られている(これは完全にオレの配慮が悪かった)。
先輩方には頭を下げて、陽香莉は女子だから着替えは先にさせてやってください。陽香莉が出てくるまで部室には入らないでほしいんですと頼んだ。


−−えッ!小寺って、女だったのか


オレがそう言うまで男だと勘違いしていたくせに、陽香莉が女と分かった瞬間にやけに彼女に対して甘くなった先輩方は少なからずいた。その中には陽香莉が着替えている最中なのを知っているのに部室へ入る人たちもいたし、盗撮をしている人たちもいた。だが当の本人は、まるで自分が女だと言うことを理解していないかのように平然とそんな先輩方とも話していた。オレはそんな陽香莉が許せなかった。


部活ではそんな風に男子に堂々としているのに、陽香莉は不思議なもので普段の学校生活では男子とも一切会話することがなかった。もししたとしても挨拶程度だし、長話をするの相手もオレか新開に限られていた。その点では問題なかった。ただ、一つもやもやするのは陽香莉のファンクラブや親衛隊の存在だった。そのほとんどが女子で形成されているも男子の姿も少なからずはあり、練習のときに「陽香莉ちゃん」と叫ぶ野太い声が聞こえるのだ。陽香莉も陽香莉で無視すればいいものをわざわざ振り返って片手を小さく上げたり、笑ったりする。それもオレには許せなかった。


140611.