小寺さんは福富さんの幼馴染だ。オレも委員長という幼馴染がいるけれど、二人の関係はどうもオレと委員長のそれとは違うらしい。


小寺さんには悪いけど、最初小寺さんを見たときには男の人だと勘違いしてしまった。背も女の子にしては高いほうだし、声も割合低いほう。切れ長の目は男のオレからしてみても惚れ惚れしてしまうほどカッコいい。最近よく練習のギャラリーに男子がいるけれど、荒北さん曰く「小寺チャンの応援隊」らしい。それだけに留まらず、小寺さんは女子人気もあるようで東堂さんがよく彼女に突っかかる姿(当の小寺さんは東堂さんなんて全く眼中にないからいつも適当にあしらわれている)がよく見受けられる。

性格と口調も性別を間違えてしまう要因の一つだろう。福富さんの口調を、ちょっと柔らかくしたようなそれと、新開さんのようなさらりと恥ずかしいことを言ってしまったり、さも当然であるかのようにレディ・ファースト(自分も女の子なのに!)を重視した性格。胸もほとんどないに等しい(福富さんの前で言ったら確実に殺される)ため、制服もスカートを履いていないとまるで男の子のようだ。

さらに小寺さんはロードに乗っている。女子の自転車部がないからと言って男子に混ざって練習してるし、決して少なくなんてないはずの男子のメニューに加え自主練と称して福富さんに勝負を挑んでいる。負けたときは(いつも負けているけれど)5分か10分くらい休んでからローラーや外周をしている。



そしてそれは今日も同じで、小寺さんはやっぱり福富さんに負けてしまった。

肩で息をする小寺さんに、いつの間にかボトルとタオルを渡す係になっていたオレ。おつかれさまです、と一言添えてそれらを渡すと今にも泣きそうな顔を上げる(小寺さんが唯一女の子だと再認識される瞬間だ)。でもそれは本当に一瞬で、瞬きをした次の瞬間にはもういつもの小寺さんに戻っているのだ。

「いつもすまないな、真波」
「これくらい何でもないですよ」

にこにこ笑いながら言うと小寺さんはオレにつられるように薄く笑む。小寺さんの、この笑った表情がオレは好きだ(一番はやっぱり坂だけど)。

「真波。悪いが、外周に付き合ってもらえるか?」
「いいですよ。また登るんですね?」

まあな、と短く答えた小寺さん。でもオレは知ってる。小寺さんの脚質はスプリンターのそれであって、クライマーのそれとは程遠いということを。それでも小寺さんが山を登る理由をオレは知ってる。多分、幼馴染の福富さんも知らないであろう、その理由を。

140513.