「福ちゃん、俺さァ。小寺チャンじゃないんだヨネ」
「?、知っているが…」

いやいや、そーゆーこっちゃねーんだヨ。小寺チャンの代わりにされてるナと感じてから早二週間。もう限界だった。言ってしまおうと小さく深呼吸をする。

「ねえ、福ちゃん。本当に小寺チャンと決別する気あんのォ?」
「………、それは、」
「ないよネ。だって、もし本当にあんなら部活の間ずっと小寺チャン探してないよナア?」

そうなのだ。福ちゃんは小寺チャンが退部届けを出して、小寺チャンが退部した今でも彼女を探してる。俺が辞めただろ、と言ってもなお探し続ける。決別するって言ってたくせに、できてねーじゃん。
そのくせ校内で擦れ違ったら挨拶するし(小寺チャンは完全スルーしてっけど)。まじ、わけわかんねえ。福ちゃんは、ヘンなとこで優しいから、余計わかんなくなる。


「無理してまで小寺チャンと離れる必要、あんの?幼馴染って、そんな簡単に離れられるもん?」
「違う、荒北。オレは、オレと陽香莉は、」


腐れ縁なんだ。そう言った福ちゃんがいつもより少し悲しい顔をしていた。ああ、小寺チャンはずるい。福ちゃんにこんな顔をさせているのは他の誰でもない、小寺チャンなのだから。だとしても。俺は口を開く。

「今のままでいいと思ってんのォ?小寺チャンのこと中途半端にぶら下げたままでさァ。落とすなら落とす、掬い上げるなら掬い上げるでケジメくらいつけなヨ」
「………」

黙り込む福ちゃん。ちょっと、言い過ぎたか?でも福ちゃんにはこれくらい言わねえと伝わんねェしな。それに、小寺チャンのことで、後悔は絶対してほしくねェし。福ちゃんは絞り出すような声で荒北、と俺の名を呼ぶ。

「荒北、オレはどうすればいい?」
「…それは福ちゃんが決めることだろ。ま、どんなことであれ福ちゃんが決めたことなら俺は応援するけどナ」

くそ、柄にもなく恥ずかしいことを言ってしまった。福ちゃんは少し考えて、すまない、と。ありがとう、荒北と短く言って席を立った。


きっと福ちゃんはこれから、小寺チャンのとこへ行くんだろう。行った先で何を言うのかは分からないし、その結末がどうなるのかなんて知るよしもない。


ただ、その日福ちゃんが泣きべそかきそうな顔をして部活に来たことで知りたくもなかったことを知ってしまうことになるのを、このとき俺はまだ知らなかった。


140611.