それ以後、小寺チャンは部活に来なくなった。新開曰く、学校には来ているようなのだが部活は無断で休んでる。それを黙秘する福ちゃんに俺はというとヤキモキした。
決別するとか言ったくせに、福ちゃんは部活の時間になると小寺チャンを探すように目を動かす。小寺チャン、来てねェよ。俺が毎回そう言って、はじめて探すのを止める。そんな無理してまで、小寺チャンと決別しなくてもいいんじゃナァイ?口にはしなかったし、するつもりもなかったけれどそう思った。

学校にいるときでもそうだ。これまでは恋人かというくらい福ちゃんの隣にいた小寺チャンの立ち位置はいつの間にか俺になっていた。福ちゃんの隣を歩けるのは嬉しいけど、なんだかなあって感じだ。福ちゃんは小寺チャンといるときのような要領で「あれ」と言うのだが俺には福ちゃんのいう「あれ」がどれなのか分からない。「あれ」ってどれだヨ。

当の小寺チャンはというと、新開と一緒にいることのほうが多くなった。同じクラスだし、スプリンター同士だから何か感じるものがあるのだろう。小寺チャンが部活に出ていたときも仲がよかった。
そんな新開と小寺チャンを見て「まるで兄妹のようだな!」と言ったのは確か東堂。それに同意したのは俺と福ちゃん。兄妹か、と新開は反復した。

−−恋人には見えないか?

小寺チャンの肩を抱いて見せつけるように言った。そのときの小寺チャンの反応は顔を真っ赤にさせていて、福ちゃんはというと黙って新開を睨んでいた。





一瞬それが誰だか分からなかった。髪が短くなっていたし、そもそも彼女が制服を着ているのを久々に見たから。小寺チャンだ。小寺チャンが、長かった髪を短く肩口で切り揃えた小寺チャンがそこにいた。俺と、福ちゃんと、新開の前にいた。


「、寿一」


発せられた言葉のトーンがいつもより高いような気がした。福ちゃんを横目で見ると少しだけ背を伸ばしたように見えた。小寺チャンの手の中には「退部届」と書かれた紙。それを福ちゃんに差し出してる。まさか、それ、受け取らねえよな。なあ、福ちゃん?ふと顔を見ると福ちゃんの顔は決別すると言ったときと同じ顔になっていた。


「…確かに受け取った」


小寺チャンは福ちゃんに一礼して、走り去った。その日付けで小寺チャンがチャリに乗る姿は見なくなってしまった。



140610.