部室に戻ると小寺チャンは頭にタオルを被った状態で床に縮こまっていた。福ちゃんは迷うことなく小寺チャンに直行した。俺はそんな福ちゃんが(というより福ちゃんと小寺チャンが)心配で近くでその様子を見守った。

「……?、福富、どうし、」
「すまない、陽香莉」

頭を下げた福ちゃんに小寺チャンは目を丸くさせる。安心したように小寺チャンは口を開くが、それは福ちゃんの言葉に遮られた。


「今日の勝負は、お前の勝ちでいい」


一瞬小寺チャンが何をしたのか分からなかった。勢いよく立ち上がると同時に叫び出す。多分、ふざけるなって言ったんだと思う。

「何でそんなことを言うんだ。私が女だからか?私が男だったら言わなかったんだろう?どうなんだ、寿一!」

福ちゃんの胸倉に掴みかかる。新開が落ち着け、と小寺チャンの腕を掴んだ。俺はというと福ちゃんと小寺チャンの間に入って、そのとき見たんだ。


小寺チャンが泣いているのを。


一瞬我が目を疑って、二度見してしまった。間違いない、泣いてる。小寺チャンが、泣いてる。咄嗟のことで頭が回らなかった。はたと我に返れば福ちゃんと小寺チャンに視線が突き刺さっていた。

「おめーら何見てんじゃねーヨ!!福ちゃんと小寺チャンは見せモンじゃねえんだぞ!!」

周りにいる全員の目をそれぞれ睨みつけると一人、また一人と視線を外していく。誰も二人を見ていないことを十分に確認する。視線を小寺チャンにやって新開にやって、また小寺チャンにやる。横目で福ちゃんを確認する。

「新開。小寺チャン寮まで送ってくんナァイ?」
「…分かった。陽香莉、いくぞ」

新開は泣いている小寺チャンの肩に手を置き、彼女の隣を歩く。福ちゃんを見ると不服そうな顔をしていた。そんな顔するくらいなら、突き放すなヨ。

「…福ちゃんって馬鹿なの?」
「そのようだ」

否定くらい、しろヨ。らしくねえな。



次の日、小寺チャンは学校を休んだ。それなのに福ちゃんは清々しいまでに何の変化もない。このままでいいのだろうか、本当に?そんな感考えが頭を過る。

「…どう思う、新開」
「何がだ?」
「惚けんな。小寺チャンのことだヨ」
「……靖友が陽香莉のこと言うなんて、意外だな…」
「ッセ!」



−−オレは、陽香莉と決別しようと思う



あのとき福ちゃんは確かにそう言った。幼馴染って、そんな簡単に決別できるものなのか?聞いたときにはそう思った。でも、今の福ちゃんと小寺チャンの現状を見るとそんなことも不可能には考えにくくて。

「俺さァ、最初小寺チャンのこと嫌いだったんだヨ。福ちゃんの周りうろちょろしやがって、何だこの女って思ってた。でも福ちゃんと小寺チャンって、そんな簡単なモンじゃねェんだよナァ」
「…そうだな」

でも、それでも福ちゃんと小寺チャン、どうにかなんねえかなとも考えてしまう。


140610.