ふと気がつくと東堂が小寺チャンを見てることに気付いたのはつい最近。ナァニ小寺チャン見てんだよ、東堂。福ちゃんに言いつけんぞ。少しドスを効かせて言ってみても効果がないということはすでに実証済みだ。

「荒北か。いや、なに。小寺と真波を見てみろ。良き先輩と後輩の図ではないか!!」

ワハハハハ、といつものように笑う姿こそ変わらないがその東堂の顔はちゃんと先輩の顔だった。何かムカついたからうっぜ、と呟けばうざくはないな!と返される。




「俺、陽香莉のこと好きだぜ」

何を言い出すかと思えば新開はそんなことを言いやがった。福ちゃんは疎か、全員の前で。じっとやつを見て出方を待つ。つーか、東堂うるせえ。

「そうか」
「そうか、って福ちゃん……、それだけなワケェ?」

他に何がある?と福ちゃんは俺を見るけどあるだろーが、もっといろいろ。仮にも福ちゃんだって小寺チャンのこと好きなんだしさあ、ねえ?それでいいのかという東堂の言葉すら構わないと答えた。

俺、たまにだけど福ちゃんが小寺チャンのことどう思ってんのかわかんなくなるヨ。福ちゃん今でも本当に、小寺チャンのこと好きなのォ??聞いてみることもできた。けれどそれをしなかったのはやっぱり俺だった。


その日も小寺チャンは福ちゃんに勝負を挑んだ。よくやるよな、小寺チャンも。男女の力差なんて、わかりきってるだろうに。しかも福ちゃんも福ちゃんで全力出してるから小寺チャンは全然追いつけない。小寺チャンも全力なんだろうけどそれでも追いつけない。

「荒北、引いてくれるか」
「あァ?!ヤだよ、他のやつに頼めって。…つーか、福ちゃん、小寺チャンに優しくとか出来ないワケ?」
「陽香莉に優しく?」

首を傾げる福ちゃん。まじかヨ。そこまで馬鹿じゃないと思ってたんだけど。だからさァ、と俺は続ける。

「小寺チャン、女の子なんだって。福ちゃんは男だけど、小寺チャンは女の子なのォ。力差とか、体力差とか、女の子の小寺チャンのほうが弱いに決まってんじゃん」
「………」
「福ちゃんさァ、今日の新開のあれもそうだけど。あんま素っ気ない態度ばっかりとってたら誰かにとられちゃうヨォ?」


ちょっとしたアドバイスのつもりだった。まさかこれが、福ちゃんと小寺チャンの中を拗らせるようなものになると知っていたら、俺は絶対福ちゃんにこんなこと言わなかっただろう。


140608.