寿一と一緒に帰ろうと思いたち、部室へ呼びに行く。すると疲れてしまったのか着替えを済ませていた彼はぐっすり眠っていた。久々に見た幼馴染の寝顔に自然と笑みが零れる。
辺りを見回すが隼人も荒北も東堂も、誰の姿もなかった。二人きり、だ。そう思うとやけにそわそわしてしまう。起こさないほうがいいのは明確で、手持ち無沙汰でなんとなく隣に腰を下ろす。肩に頭を持たせかけてみると体格の違いがありありと分かる。当たり前だ。寿一は男の子で、私は女子なのだから。

(…ちょっとだけなら、触ってもいい、よな…?)

いたずらをする子どものように心臓が跳ね上がる。レースの時とは、また違う跳ね上がり方だ。おそるおそる手を伸ばし、寿一の暖かそうな髪に触れてみる。少しちくちくしたが、それが逆に気持ちよかった。

「……ん」
「!!!!」

まずいを起こしてしまった。寿一が薄く目を開き、私を見つめる。掠れた声で「陽香莉、」なんて呟くからもう驚きだ。どうしよう。どうしたらいい??困惑していると彼の手が伸び、私の肩を掴む。何事ぞと思った次の瞬間には寿一に抱き寄せられた。

(は………、え?!!)

男の子に抱き寄せられるのははじめてではない(一度隼人にやられた)がやはりびっくりしてしまう。

「じゅ、寿一。起きろ」
「…………すぅ、」

慌てて身体を揺するも寿一から返ってきたのは寝息をたてる音で。何だ、これは。これは、何だ。寿一の心臓の動く音が聞こえる。私の心臓とは違い、一定のリズムを刻むそれに少しだけムカついた。そっと目を閉じて、その音に耳を澄ました。





ぱちり、目を開ける。どうやら寝ていたらしい。何てことだ、オレとしたことが。ふと左側に体温を感じ、そちらを見ると陽香莉がいた。なぜ、陽香莉がここに。びっくりしながら記憶を辿ると、陽香莉が夢の中に出てきた、気がする。成程、そうするとつまりあれは現実だったのか。陽香莉を見下ろすと可愛らしい寝顔をしていた。起こすのにはなんとなく惜しい気がして、起こさないようにしながら彼女を背中に乗せる。落ちていた鞄を二つ持ち、寮へ戻る。そういえば、最後に陽香莉をおんぶしたのはいつだったろう。された記憶はあっても、した記憶はない。

いつの間にか身体が丸くなってしまい、オレを追い越すことがなくなった陽香莉。そんな陽香莉に恐怖を抱いていたが、こんな風にできるのならそれも悪いことではないのかもしれない。


140608.
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