まず驚いたのは小寺チャンが福ちゃんと毎日勝負を挑んでいるということ。次に驚いたのは小寺チャンが連敗続きなのに、それでも福ちゃんに勝負を挑んでいるということ。そこで気付いたのは、小寺チャンがいつか言っていた「男でいいよな」という言葉の意味。

何か、俺、地雷踏んだ感じだよなア。謝ったほうがいいか?いや、でも、だけど。そんなこんなで小寺チャンには謝れず、結果的に福ちゃんから「陽香莉と仲が悪いのか」と言われてしまう始末。言葉を濁せば仲良くしてやってくれ、と頭を下げられてしまった。

−−お前も知ってのとおり、陽香莉はあんな性格だ。最近では女子から反感を食らっていると聞く。荒北、お前さえよければあいつのことを面倒見てくれないか
−−福ちゃんは小寺チャンの父親かヨ
−−?、幼馴染だが

真顔で何言ってんだか福ちゃんはさも当然の如く返答した。いや、まア、そうなんだけどォ。頭を掻きながらどうしてこうも伝わらないものかと考える。やっぱり福ちゃんは多少ストレートに言わないといけないらしい。絶対、言わねェけど。


福ちゃんに頼まれたからではないけれど、俺はその日を境に小寺チャンと仲良くする努力をした。最初はまあやっぱり逃げられたし憎まれ口を叩かれた。俺は俺で追いかけるし、売り言葉に買い言葉な状態がずっと続いた。そんなものだから、小寺チャンとまともに会話らしい会話をしたのは高三の春が最初で最後だった。すまない。小寺チャンがいきなり謝ってきたから何事かと、思わず二度見してしまった。

−−…何が?
−−…お前に、空き缶をぶつけてしまっただろう

いつの話してンだって思った。最初に小寺チャンと会って頭に空き缶をぶつけられたことを、そのときの俺はぼんやりとした記憶でしか思い出すことが出来なかった。

−−べっつにィ。つーかいーヨ、そんなむかしのこと
−−お前がよくても私の気が治まらんのだ。それに、関係ないことも話してしまったし……

そうそう、これこれ。この話し方だ、福ちゃんから聞いてた「小寺チャン」ってのは。じゃあ最初見た小寺チャンは?なんて頭の片隅で考える。

小寺チャンの言った「関係ないこと」のほうがはっきり思い出せた。でも俺は「そんなの俺聞いてねェヨ」と答えた。小寺チャンは一瞬目を丸くして、また一言すまないと謝った。


きっと俺に謝ったほうの「小寺チャン」は福ちゃんの「腐れ縁」のほうの小寺チャンで、俺の頭に空き缶を投げてきたほうの「小寺チャン」が福ちゃんの「幼馴染」のほうの小寺チャンなんだろう。


140607.