福ちゃんと小寺チャンは幼馴染らしい。新開に福ちゃんの周りをうろちょろしてる男は誰なのかと尋ねたら幼馴染だと言われた(しかも、男じゃなくて女だった)。まじかヨ、福ちゃん。幼馴染なんて居たのォ?俺聞いてないんだけど。抗議するつもりで言えば、言ってないからなと一蹴されてしまった。

−−福ちゃん、その子のこと好きなのォ?
−−ああ

割とふざけてベタなことを聞くとあっさりそんな答えが返ってきた。くそ、鉄仮面が。少しくらい表情変えるとかねェの?口を開こうとしたら福ちゃんの耳が赤いのに気付いた。ああ、福ちゃん本気なんだなァと思ったのと同時に少し悔しかった。福ちゃんに好きだと言わせたその幼馴染が。


その日以来、俺は会ったこともない福ちゃんの幼馴染に敵意を剥き出しにした。


小寺チャンと面と向かってはじめて会ったときのことはよく覚えてる。俺が小寺チャンを呼び出したというのもあるけど、何より、福ちゃんから聞いてたのと全然印象が違ったから印象に残ってるだけなんだけど。

−−小寺チャンだっけ?もう福ちゃんの前うろつくなヨ

それだけ言って立ち去ろうとしたら後頭部に軽い衝撃が走った。患部を抑えながら後ろを振り返ると目に涙を貯めた小寺チャンが持っていた空き缶を投げたらしい(俺の足元に空き缶が転がっていた)。


−−なにも知らないくせに!あんただって寿一の前うろつくのやめなさいよ、この元ヤン!!
−−……アァ?


本当に福ちゃんの幼馴染かヨ、こいつ。聞いてた話と違いすぎじゃね?でも今、確かに寿一って呼んだし。小寺チャンを上から下までじっと見つめる。
肩よりちょっと長めの黒髪に、女子にしては高い背(170くらい)だっつってたし。福ちゃんと同じクラスで該当する女子なんて、こいつしかいなかったよなーとよくよく思い出してみる。うん、こいつしかいなかった。もう一度小寺チャンを見る。


−−あんたはいいわよね、男なんだから!!


それだけ言って、小寺チャンは走って逃げていった。女子の体力なんて知れてるのに俺は追いかけることをしなかった。出来なかったというべきか。言った小寺チャンの顔が、ひどく泣きそうになっていたから。綺麗とまではいかないけれど端整な顔が、ブッサイクで、ヒッデー顔になっていた。


小寺チャンが放ったその言葉の意味が分かったのは、チャリ部に入ってからだった。


140607.