その後陽香莉は学校に来るも部活には顔を出さない日々が続いた。寿一も寿一で陽香莉に会っても部活に出ろとは言わなかった。そればかりか学校生活ではあんなに仲がよかった寿一と陽香莉は、それが嘘のように会話もなければ挨拶すらしなくなった。その代わり陽香莉は俺と一緒に過ごすことが多くなった。

このままずっと、寿一と陽香莉の距離が遠くなってしまえばいいのに。陽香莉が寿一のことを嫌いになってしまえばいいのに。陽香莉の気持ちが少しでも、俺に向けばいいのに。そんなことを思いながら過ごしていた。


「隼人、おはよう」

寮の共同スペース。制服を着た陽香莉を見て驚いた。昨日まで肩より10cmほど下にあった陽香莉の髪が、今では肩口で綺麗に切り揃えられていた。ぽかんとしながら本当に陽香莉だろうかと見つめていると「どうした?」尋ねられた。

「あ、あー…っと……。か、髪切ったんだなーって、思って……」
「似合わないか?」
「いや、似合ってる。けど、」

伸ばしてたんじゃなかったのか?中学の頃、陽香莉はせめて女らしくしようと髪を伸ばしているんだと笑っていた。だから、てっきりずっと伸ばすのかと思っていた。

「…必要なくなったんだ」
「……」

陽香莉の顔は、寿一のことを話すときと同じ顔をしていた。久しぶりすぎて驚いた。やっぱり寿一には敵わないな。陽香莉は寿一のことを話すとき、一番かわいい顔をする。俺の話をしても、陽香莉のこの顔は出ない。悔しいなあ。素直にそう思った。

「今日は部活、来るのか?」
「ああ、その予定だ」
「そうか。寿一もきっと喜ぶ」

果たして本当にそうだろうか?寿一は喜ぶのだろうか。陽香莉が来て、またいつものように勝負して、陽香莉が負けて。あのときみたいに泣いて、叫んで、咽び泣いて。俺はそんな陽香莉の隣に寄り添って。泣き顔を見せてくれない強がりな陽香莉の傍にいて。

そんな日々がきっとこれからも続くんだ。俺は決して陽香莉に想いを告げることはなく、陽香莉自身も俺を見てくれることはなく。それでいい。そのままでいい。今の距離感でいいんだ。そう、思っていたのに。



今、目の前にいる陽香莉の手にあるのは紛れもなく退部届けで。寿一の前にそれを差し出してる。受け取らないはずだ。受け取らないでくれ。頼む、寿一。願ってみるも寿一はそんな俺の気持ちなんて露知らず。


「…確かに受け取った」


俺は寿一が嫌いだ。


140607.