小寺さんが落車した。真波は疎か、僕も、ユキも、その場にいた全員が驚いた。東堂!いつの間にか自転車から降りたのか新開さんは叫んだ。

「寿一を呼んでこい!まだ山にいるはずだ。なるべく早くだ!」
「わかっている!」

辺りが騒然とした。当の小寺さんはというと息を荒げていた。過呼吸だろうか。大丈夫ですか。声をかけようとしたら新開さんは練習を続けろと言った。そうだ。でも、だけど。小寺さんを見つめる。薄く開いた瞳と目が合う。久々だ。小寺さんと目が合うのは久々だった。




驚いたよなあ、小寺さん。大丈夫かな。外周が終わりユキは突然言い出した。ちょっと驚きつつ(ユキが小寺さんのことを話したのは入部以来だった)、そうだねと返す。

「よくやるよなあ、女なのに」
「……そう、だね」
「小寺さんがロードするのって、やっぱあれか?福富さんの影響か?」

ユキとそんなことを話していたら小寺さんと新開さんが現れた。それとなく新開さんに小寺さんはどうしたのかと尋ねると「風邪だ」と答えた。風邪なのに、走っていたのか。

「馬鹿だよなあ、陽香莉も。寿一と走るのに支障はないって、すげー支障じゃん」
「………」
「……何がいいのかね、あいつの」

俺にしてくんないかなと茶化すように言った新開さんに同情したわけではない。むしろ新開さんはズルいとさえ思う。ではズルいと分かっていても尚、新開さんを慕っている僕は何だろう?違いますよ、と気が付いたら僕しか気付いていないであろう二人の関係について話していた。それを聞き終わると新開さんはニヤっと笑いながらやっぱりありがとな、と言うのだからズルい。





−−多分ですけど、福富さんと小寺さん、幼馴染じゃなくて腐れ縁だと思います





「ふざけるな!」




突然叫び出した声だけではそれが誰かなんて判断がつかなかった。怒ったような、失望したような叫び。はたと声のしたほうを見ると福富さんと小寺さんがいた。

「なんでそんなことを言うんだ。私が女だからか?私が男だったら言わなかっただろう?どうなんだ、寿一!」

福富さんの胸倉に掴みかかった小寺さん。その目に涙が浮かんでいたのはきっと僕の思い込みなんかではない。荒北さんが福富さんの前に立ちはだかり、新開さんはというといつの間に彼女の傍に行ったのか、小寺さんの腕を掴んでいた。目に浮かんだそれが頬に滴り落ちたのを見て、僕ははっきりと実感した。小寺さんが、泣いている。
そのとき、ふと新開さんを見てしまい驚いた。だって、新開さんの表情は、


140524.