その次の日の部活から僕と小寺さんは一緒に走らなくなってしまった。その代わり彼女の隣には真波がいた。でもその真波も二、三ヶ月すればユキに変わったり、東堂さんに変わったりしていた。それでも相も変わらず福富さんにだけは挑戦を挑んでいた。


新開さんと小寺さんは学年も同じで、スプリンター同士。さらに福富さんという共通点で繋がっている。その分通じるものもあるのだろう、小寺さんは新開さんといるとよく笑っていた。

新開さんが小寺さんを見る目が違うと気付いたのには、いつからだろうか。



「俺、陽香莉のこと好きだぜ」

何の脈拍もなく、突然そう言った新開さんに驚いた。だって、そんな、何も福富さんに言う必要ないじゃないか。荒北さんは眉間に皺を寄せるが決して話に入ろうとはしない。代わりに東堂さんが騒ぎまくっていた。

「そうか」
「そうか、って福ちゃん……、それだけなワケェ?」
「?、他に何がある?」
「福!!いいのか、お前はそれでいいのか??!」

構わん、と短く答えた福富さんを凝視してしまった。福富さんは小寺さんのことが好きなんだと思っていたから少し拍子抜けしてしまったのだ。

僕はどうすればいいのだろう、アンディ、フランク。二人に聞いてみたところで答えるわけでもないのに聞かざるを得なかった。




「まっ、なみっ」
「、はい!」

ここ数ヶ月、山に差し掛かると小寺さんは真波に引いてもらうことが多くなった。最近、ごく稀にだけど僕は小寺さんに引いてもらうこともある。やはり小寺さんはオールラウンダーを目指しているのだろう。新開さんがいつか言っていたことを思い出す。


−−陽香莉はスプリントを捨てたわけじゃない。オールラウンダーになろうとしてるんだ


元々スプリンターの脚質をした小寺さんがヒルクライムをするということは、恐らくそういうことなんだろう。そして最終目標は。既にその背中が見えなくなっている福富さんを思う。本当に小寺さんは良くも悪くも福富さんしか見ていないんだと改めて思った。


「大丈夫ですか?小寺さん、速度落としましょうか?」
「……すまない、頼む」


あの時と同じ顔だ。あの時、僕がはじめて等身大の小寺さんを見た時と、同じ顔をしていた。唇を噛み締めながら悔しそうに前を見据える。ぐらり。大きく小寺さんの身体が揺れる。危ない。そう思ったときには小寺さんは落車していた。


140523.