dream | ナノ



私の目覚めは小鳥のさえずりでもなければ、無機質な電子音でもない。
私の目覚めは、優しい衣擦れの音。秀次くんが布団を揺する、そのわずかな優しい音で目覚めるのだ。
「起きてください、名前さん」
「ん〜、」
布団にすっぽり包まり、顔だけを出して笑ってみせる。
「おはよう、秀次くん」
「おはようございます、名前さん」
お互い朝の、短い挨拶を交わした。いつもならここで起きるところだが今日に限ってはどういうわけか、ちょっといたずらなことを言ってみたくなった。
「ね、ね、秀次くん」
「…なんですか」
呼びかける声が少しだけ掠れる私に対して秀次くんはというと、別段いつもと同じ声だった。それが私の耳にはたまらなく心地良く、また眠りを誘うのだ。
「目覚めのキスしてよ」
「は」
言ってみたものの秀次くんの性格的に、キャラ的にそんなことするような子ではないことくらい分かってる。
秀次くんのことだ、絶対に「寝惚けたこと言ってないで早く顔でも洗ってきたらどうです」くらい言うのだろう。
わかりましたよう、なんて口を尖らせながらベッドを這い出る準備は万全だ。さあいつでも来るがよい、と不敵な笑みを浮かべた私の作戦は失敗に終わった。
秀次くんは私の顔を見つめ、やがて溜息をついて「分かりましたよ」と呟いた。え、は?想定外の出来事に思わず目をぱちくりさせていると眼前に迫る、嫌味なほどに整った秀次くんの顔。
「ちょ、しゅ、じく……、三輪さん!?」
「目くらい瞑ったらどうです」
「は、はい!」
思わず彼に言われたとおり従順に目を瞑ってしまう。そのまま3秒してから聞こえたのは衣擦れの音と、軽いリップ音。ゆっくり目を開けると秀次くんの顔が遠ざかっていく途中だった。
「…朝ご飯、出来てるんで、早く食べてください」
「………うん」
私今何された?!おかげで眠気が一気に吹き飛んだ。脳内の整理がつかないまま、空返事をすると秀次くんの眉間に皺が寄る。そのままつかつかと歩んで来たかと思えば思いっきり布団をひっぺがされる。
「朝ごはん!出来てるんで、早く食べてください!!」
「はい!?」
「だから、朝ご飯!!」
「あっ…、ああ!朝ご飯ね。うん、わかった、了解……」
「ほんとうにわかってるんですか……」
おい待て。何仕掛けたお前が真っ赤になってんだ。いや仕向けたのは私だけど。もうやだ。こいつも私も、朝っぱらから何やってんだか。分かったもんじゃない。

150726.