dream | ナノ



山口はかわいい。そりゃあもう、生まれてくる性別間違えてんだろレベルにかわいい。性格が悪いと名高い月島の野郎の傍にいるのに、まったく嫌な感じがしない。マイナスイオンを放っている、月島とは真逆なタイプ。
この度の席替えで、そんな山口の隣りの席になれたもんだからあたしは日々息が止まりそうである。この世に山口忠という存在を産み落としてくれた山口のお母様を全力で讃えたい。跪いて崇めて奉りたい。今日も今日とてあたしは山口の顔を拝見しながら授業に臨む。神さま仏さま、今この瞬間をありがとう……、私は山口の顔を拝んでいるこの瞬間が、たまらなく好きだ。



「苗字、生物のノート貸してもらえないかな?」
目を丸くして、アホみたいに口をぽかんと開けて。きっと今、あたしの顔はアホ面だ。てか、え?なんて??ダメかな、なんて合わせた両手の横から顔を覗かせられたらダメなんて言えないだろう。
「いいけど……、月島に借りなくていいの?あいつのが私より確実にノート見やすいと思うんだけど」
「苗字のが、いい、んだけど」
はあ???何だそれ。そんな言葉どこで覚えてきやがった。仕方ないなあ、と勿体ぶってノートを渡す。山口はそれを嬉しそうに受け取る。ち、ちくしょう!こいつ、自分がかわいいと知っててやってやがる……!!
「次の授業までに返すから」
「いーよ、別に。返すのいつでも」
「でもそれじゃ悪いし、」
「あたしがいーって言ってんだから、いーの」
素っ気ない態度で、山口にノートを押しつけて教室から出る。しばらく廊下を歩いたところで、しゃがみ込む。山口に話しかけられたの、はじめてだ。

(あいつ、ちゃんとあたしのこと認知してくれてた…)

その事実がなんだかやけに嬉しかった。あー、くそ。顔がニヤける。変な顔、してなかったよな、あたし。両手を頬に添える。指先だけは寒いのに、触れた顔は暑かった。


141111.
山口 Happy Birthday!