dream | ナノ



遅い。遅すぎる。現在の時刻は8時を回ったところ。今日は久々に研磨ちゃんと帰る約束をしてた、のに。研磨ちゃん、遅くても8時には部活終わるって言ったのに!!!何で来ないんだろう。時計はまもなく3を指し示すところだ。先に帰るという選択肢なんてはなからない私は部室へ向かうことにした。



なんということでしょう。部室へ来てみれば研磨ちゃんが、あの孤爪研磨ちゃんがすやすや寝息をたてて眠っているではありませんか……。あまりにかわいすぎて鞄からぽいふぉんさんを取り出して写真を撮ってしまった。えへへ、あとで待受にしよーっと。にやにやしながらぽいふぉんをしまう。
携帯で写真を撮り終えると思いのほかやることがなくなった。「研磨ちゃーん」声をかけてみるけど返事がない。まさか研磨ちゃんの寝込みを襲うなんて勇気私にはない。そっと研磨ちゃんに寄り添うように彼の隣りに座る。
そういえば黒尾くんはどこだろうと辺りを見回すけどどこにもいない。うーん、まだ体育館で練習中なのかな?研磨ちゃん寝てるけど、大丈夫なのかな。黒尾くんって、いつも研磨ちゃんとセットでいるイメージあるからこういうふうにセットじゃないのって、案外珍しい、かも。
「……ん」
「!!」
け、研磨ちゃんが…!あの研磨ちゃんが、私に寄りかかってきてくれ、た。ちらりと横目で研磨ちゃんを見ると天使がいました。うわー、研磨ちゃん髪の毛さらさらしてる…。ちょっとだけ。ちょっとだけなら、触ってもいい、よね?私の肩にもたれかかる研磨ちゃんの前髪を軽く梳いてみる。わ、すご。さらさらしてる。プリンのくせに。
「………名前」
「……?!わぶ」
突然呟かれた私の名前に叫び出しそうになるのを堪える。ぐおおお、な、なんなんだ。このかわいい生き物!!お家で飼いたい。というか飼おう。ちゃんと面倒見よう。なんてアホな百面相してたら隣りで研磨ちゃんがもぞもぞ動き出した。
「………名前?」
「け、研磨ちゃん。お、………、おはよう」
別に疚しいことなんてないはずなのに何でこんなにドモるんだろう。そして何でこんなに緊張するんだろう。目覚めたばかりの研磨ちゃんはぼーっと私を見る。穴が空いてしまうんじゃないかってくらいに見つめられたあと、研磨ちゃんは私のブレザーを力いっぱい自分のほうへ引き寄せた。え、ちょ。
瞬間触れ合ったのは研磨ちゃんの唇と私の唇。 あまりに突然のことで頭が追いつかない。そのくせ心臓はうるさいくらいに鼓動してるんだから余計意味がわからなくなる。ど、どういうこと、なの。っていうか私ファーストキス……。呆然とする私をよそに研磨ちゃんは、またまじまじと私を見る。そしてやがて頭がはっきりしたのか、飛び上がるくらい驚いた。
「え、名前……?なんでいるの?」
「な、何でって……、研磨ちゃん、今日帰る約束しててたのに、時間になっても来なかったから、来ちゃっ、た?」
「………」
研磨ちゃんは長い長い溜息をついた。そして、私を視界の端に入れる程度にちらっと見て、「今の」と口を開いた。
「…今の、またリベンジさせてね」
「へ?」
今の?リベンジ??それってつまり…。研磨ちゃんを見ると後ろを向いていた。プリンの髪から覗いていた耳が、ユニフォームと同じくらいに赤いことに気付いてしまった。そうされると、もう、私は押し黙るより他なかった。


141019.
研磨Happy Birthday!!