dream | ナノ



※若干荒→福要素あり
※初期北



荒北くんに告白された。本当は福富くん狙いだったけど、荒北くんも恰好いいから了承した。でもまさか荒北くんが名前のこと好きだったなんて!全く盲点だった(そういえば福富くんにアピールしてるとき何か視線を感じたけど、あれは荒北くんだったのかな?)。何はともあれ、名前と荒北くんは付き合うことになった。

だけど荒北くんはガードが固い。例えば一緒に帰ろうと言えば部活が遅くまでかかるから無理と言われてしまう。お昼を食べようとクラスまで言いに行くともう先食ったと言われる。レースの応援行くねとスケジュール帳を出して言えば来んなと言われる。だから名前は荒北くんと付き合っているのに手も繋いだことがない。キスなんて夢のまた夢。
でも名前は知ってるの。そんな、つっけんどんな態度はすべて名前を試しているからなんだって。一緒に帰ってくれないのは、家に入るまでのちょっとした距離を名前一人で歩かせたくないから。一緒にお昼を食べてくれないのは、早弁して食べるお弁当がないから。レースの応援に行かせてくれないのは、名前みたいなカワイイ彼女を他人に見せたくないから。だから名前は、どんなに荒北くんに冷たくされても、蔑ろにされても、絶対挫けないの!
「でもぶっちゃけ苗字と荒北って付き合ってる感ゼロだよね」
「そうそう、なんかたまに、苗字の思い込みなんじゃないのって感じちゃうよね〜」
「わっかるー」
あはははは、とトイレで話していた同じクラスの女子たちにもめげない。違うもん、そんなことないもん。荒北くんは名前に告白してくれたんだもん。でも、あれ?


名前、一度でも荒北くんに好きって言われたこと、あったっけ?


荒北くんが本当に名前のことが好きなのか不安になり始めた頃。荒北くんからメールが来た。こっちからすることはあっても、荒北くんから来たのは始めてで嬉しくなった。ほら、ほら!やっぱり荒北くんは名前のことが好きなんだ!読むとそこには明日大事な話があるから学校に来い、とのこと。
大事な話。大事な話!きっと今迄は試してたんだって言われるんだ!ようやく荒北くんに認められたんだ。ついに名前の努力が、報われるんだ。

翌日。めいっぱいおしゃれして、お気に入りの香水をつけて、ヒールの靴を履いて、お化粧して。いつもよりカワイイ名前になる。いってきます、と家を出て学校へ。


おかしい。夕方5時頃に校門で待ってろと言われたはずなのに。携帯に表示されてる時間を見ると5時45分になっていた。ううん、違う。これは名前を試してるんだ。多分、最後の試し。ようやく荒北くんが来たのは2時間後の7時だった。
「苗字チャン本当に5時から待ってたのォ?」
「だって荒北くんが待っててって言ったから……、それで、話って何?」
「ああ、ウン。あのねェ、苗字チャン」
ようやくだ。ようやく、荒北くんと正式に付き合える。これからはデートもたくさんして、レースの応援にも行って、お昼も一緒に食べて、手を繋いで一緒に帰って、キスをして、それで、それで、



「俺、苗字チャンのこと嫌いなんだわ」




……それ、で?目の前が真っ暗になったのに頭の中は真っ白で。え……、え?な、何で?
「だ、だって荒北くん、名前のことずっと見てたって……」
「誰がいつ苗字チャンのことって言ったのォ?俺が見てたのは福チャンだよ」
フクチャン。フクちゃん。ふくちゃん。福チャン。福ちゃん。一瞬誰?って思ったけどすぐに分かった。福富くん、だ。
「……付き合って、って言ったのは……?」
「俺の遊びに、ってコトォ。苗字チャンほんとウケるよねェ」
名前には、もう楽しそうに話している荒北くんが何を言っているのか分からなかった。


140511.