dream | ナノ



どこかで見覚えがあると思ったら、どうやら彼女は立海テニス部のマネージャーらしい。わざわざ神奈川から東京まで、俺に会いに来てくれたらしい彼女はぶすっとした可愛くない顔をしていた。それでも女子に呼び出されると期待してしまうのが、男ってもんだろ?
「ども、お久しぶりっす」
「桃城くん、だったわね」
頭を下げる俺に対し彼女は相変わらず仏頂面。まあでも、それぞれの顔のパーツは整っている。可愛い、というよりは美人系。好みのタイプではないけれど、それなりに好きにはなれそうだ。
「ごめんなさいね、部活の時間だったでしょう」
「いや、そんな。女の子が呼んでる、って聞いたから」
「まあ」
驚いたように目を見開く彼女。そういえば名前を知らない。尋ねてみると名乗るのが礼儀よね、と若干睨まれるようにして続けた。
「苗字名前よ。詳しくは後で国光にでも聞いてちょうだい」
国光。国光?手塚部長だと気付くまで数分かかってしまった。手塚部長の、知り合いか。立海の制服を着た苗字さんをもう一度見る。化粧したら映えるだろうな。
「じゃあ単刀直入に聞くわね」
聞く?言う、の間違いじゃないだろうか。変な人だなあと思いながら、俺の考えが根本から違ったことに気付く。
「あなたあの後、丸井くんに謝った?」
丸井、って確か、立海のダブルスコンビ、の。
ふと脳裏を過るのは関東大会。うるせえ、凡人が!そう叫んだときの、無表情の中に一瞬だけ見えた泣き出しそうな顔。
次に浮かんだのは全国大会。時間稼ぎありがとうございました。大石先輩と菊丸先輩に頭を下げた後の、信じられないようなものを見る顔。
いえ、と否定の言葉を口にすると苗字さんは今までの冷静さはどこへやら、ふざけないで、と声を張り上げる。
「あなたがどういう心算りであんなことを言ったのかは分からないけど、時間稼ぎはないんじゃないかしら。関東大会のときから思っていたけれど、あなた失礼すぎるのよ」
「丸井くんは確かに凡人よ。でもね、それはあなたに言われなくても、本人が一番分かってることだし、本人が一番気にしてるの。だから他のみんなより倍の、20kgのパワーリストとパワーアンクルをしてたの。それなのにそんな努力を知らない貴方が、時間稼ぎ?ふざけないで」
「丸井くんと桑原くんのテニスが、いいえ、丸井くんたちだけじゃないわ。真田くんのテニスも、赤也くんと柳くんのテニスも、仁王くんのテニスも。みんなの、彼らのテニスが、時間稼ぎと言われたの。ねえ、分かる?」
「時間稼ぎって言われた、彼らのテニスを。本人たちは一生懸命、ボールに喰らいついてた。なのに、それを時間稼ぎと言われたの。これくらい残酷なことって、あると思う?」

答えてよ、桃城くん。苗字さんは相変わらずぶすっとした顔で、でもどこか泣きそうな顔をしていた。


141011.
桃城とは名ばかりの立海の話でした