dream | ナノ



事の発端は先週。三日間にかけて箱根をチャリで疾走するという考えただけでも恐ろしいインハイが終わってからである。
恐らく寒咲の肥えた胸を三日間拝んでいたからだろう。久々に会った彼女に対しての第一声が「苗字さんほんまにおっぱいないなあ!!」である。しかも地味にいい笑顔で。
私も私で何か皮肉の一つや二つ言ってやれば良かったのだろう。だが常日頃からコンプレックスとして抱いていたそれを惜しげもなく男子に、それも付き合っている彼氏にいい笑顔で言われてしまった。それなりにショックで頭にガンと衝撃が走り、脳内が真っ白になり、目の淵には涙が迫り来るという状況に陥った。

最初こそ私の出方を見ようとにやにや笑っていた鳴子だったが何も言わない私に慌てだした。ついに目の淵から涙がこぼれ落ちると彼はギョッとしだす(男子の前で泣くとか、最低だろ私)。

−−冗談です!苗字さん、冗談!!

腕で涙を拭い鳴子を見つめる。冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろうに(この場合は言わずもがな後者)。田所に言い付けてやる。胸中で呟いて「気にしてんだからさあ」と口を開こうとしたら鳴子は小生意気にも、

−−ワイが育てたりますから!!

と言ったのだ。どこで覚えた台詞は定かではない。だが鳴子が自分の髪の色と同じくらい顔を真っ赤にさせながら放ったその言葉に、私はというと何も言えなかった。ただ、こいつ馬鹿なんだなあと思ったことだけは鮮明に思い出せる。



昨日のことだ。たまたま用事があり学校にいた私は鳴子に声をかけられた。先週のこと、覚えとります?何のことかと尋ねるのも愚問で(というより鳴子の顔を見た瞬間に、はたとそのことを思い出した)、まあそれなりにと答えた。

−−明日、ワイの両親仕事でおらんのです。家、来てください

そう言った鳴子の顔はやっぱり真っ赤だった。下心見え見えのそれに乗ってみようと思った。でも即答するのは癪だったので勿体ぶっていろいろと言ってみた。私が遠回しに行かないような発言をする度に鳴子は俯き加減になる。

落として落として、最後の最後で冗談だよ、と。暇してたからいいよ、と上げる。瞬間的に鳴子の顔が明るくなる(なんて分かりやすいやつなんだろう)。かわいいなあ、と思っていると彼はタックルをかますように私に抱き着いてきた。



そして今日。普段は絶対に着ないような、ヒラヒラふりふりの、いかにも女の子という感じの服に袖を通した。恐らくはじめてであろう彼を考慮して、脱がしやすい服を選らんだつもりだ。ばくばくとうるさい心臓を抑え、鳴子の家のインターフォンを押した。


140510.
鳴子に「姉ちゃんほんまにおっぱいないなー!」って言われたい願望をこじらせたもの