dream | ナノ



※初期学※
※初期北、初期開の性格口調等捏注意※





我が自転車競技部の印象を聞くと高確率で「怖い」と言われてしまう。そりゃまあ、あれだけ強面連中どもがいると「怖い」という気持ちが生まれるのは分からなくもない。逆によくこんな人相悪い人たちが集まるなと謎の感動が起こるくらいだ。おかげでうちの部には悲しきかな、マネージャーがあたし一人しかいない。
そんな強面で、怖いと評判のある彼等だが実際話すとそうでもない。福富はズレてるけどちゃんと部の(というか主に荒北の)面倒をよく見ているし、荒北は見た目に反して優しいし、無口で有名な新開に至ってはロードになるとぺらぺら人が変わったように喋り出す。唯一顔がいい東堂はうるさい、なんか残念、ナルシストの三拍子揃いだ。

一癖も二癖もある彼等は実績だけは確かで、面白そうだからという理由だけでマネージャーになった私にとっては正直驚きだった。一分一秒の世界。本当の意味での、一分一秒の意味を知った。今では不本意ながら、やつらの役に少しでもなりたいと自転車の専門書を買ったり、中学時代料理部の部長であった力をフル活用し差し入れを作ったりとしている。そんな私の姿を見て、周りの人たちは言うのだ。「箱学の勝利の女神」と。でも実際私はそんな大層なことしていないし、勝利しているのは彼等自身の実力なのだ。私の力ではない。



「そんなことないヨォ、苗字チャン」
「いやあ、それがあるんだな。これが」
っていうか私何で荒北にこんなこと話してんだろう……。いや、荒北だからこそ言えるっていうのもあるんだけど。割と最近入部した新参者である荒北と私は仲が良い。福富自身もまさか荒北が苗字に懐くなんて、と驚いていたくらいだ。
「だって苗字チャンのおかげだヨ。俺が福チャンと会えたの」
「…わお、なに私。そんな荒北に貢献してた?」
「してるヨ。それに、俺だけじゃない。新開も、東堂も、多分福チャンも。気付いてないだけで、みぃんな苗字チャンに支えられてんだから」
そしてこの荒北の圧倒的イケメン力である。そ、そんな風に言われたら今週末にやるレースの差し入れ、頑張るしかないじゃん!!彼氏にするなら荒北がいい、と本音を漏らせばそれだけは却下と笑われてしまった。
「…靖友、名前」
「うおっふ。新開」
突然後ろからかけられた声は紛れもなく新開のだった。毎回毎回いきなり後ろから声かけるのはいい加減にしてほしい。私の心臓が持たない。
「あらァ、新開チャンじゃナァイ」
どうしたのォ、と荒北は目を細める。くっそー、こうしてみると荒北はやっぱり下睫毛長い。肌も透き通るくらい白いし、こいて絶対生まれてくる性別間違えただろ。
「寿一、呼んでた」
「福チャンがァ??」
荒北は私を見て、少し名残惜しそうに席をたった。ちょっといってくるねェ、と手を振る荒北は間違いなく生まれてくる性別を間違えていた。
「何、話してた」
「?荒北と??」
こくり。静かに首を縦に動かす新開。こいつは本当に喋らないな。これが直線鬼なんだから人は見た目によらない。
「あんたらに魅せられたって話」
「名前は勝利の女神だからな」
「私アテナじゃないし、そんな大層なモンじゃないよ」
「違う。名前が自覚ないだけ。俺も、寿一も、靖友も、尽八も、支えられてる。お前に」
「あ、それさっき荒北にも言われた」
今日は国際苗字名前ちゃん感謝デーだっただろうか。嬉しいけど、ここまで言われると何か裏があるのではと疑いにかかってしまうのが私という人間よ。
「…名前と一緒だといつもの三倍話さないといけないから疲れる」
「あんた無口すぎんのよ。少しは東堂見習いなさいって」
新開の背中を押すと「それだけは絶対ヤだ」と真顔で言われた。でも私も新開がめちゃめちゃ喋ってるのは想像出来なかった。
「あ」
「なに?」
「東堂、さっき会って。名前探してた」
「まじか」
あいつ待たせると面倒なんだよな。新開に短くお礼を言って、東堂を探しに行った。


140708.
私が書く夢主総愛はこれが限界です 多分続く(はず)