dream | ナノ



※名前変換無し




私は幸村が大嫌いだ。横暴だし、人の話を聞かない。どこから嗅ぎつけたのかは知らないけど私と真田が幼馴染だと知りや否や強制的にテニス部のマネージャーにさせられてしまった。でもそんな幸村より誰より一番大嫌いなのは、造り上げた虚像の塊である「神の子」の犬に成り下がってしまった真田だ。いや、犬というよりは操り人形と言うべきか。幸村が入院してからというもの、真田は自分の意志を持たない操り人形のように一言目には「幸村が」「幸村なら」「幸村は」等と言うようになった。そんな真田が堪らなく大嫌いだった。


幸村が退院したらきっともとに戻るはずだという私の思いは見事に覆された。決定的だったのは準決勝の前。幸村は私と真田に相談があると言った。その内容は切原を覚醒させるということ。そのために次の準決勝は切原が覚醒するまで負けの芝居を打つというものだった。曰く、その兆候はあるらしいのだが決定的に欠けているものがあり、その欠けているものを次の準決勝で補い、万全の状態で決勝を迎えるとのこと(失敗したときのことは考えていないあたりがさすが神の子だ)。

私は勿論反対した。勝算もない、そんな賭けみたいなことに切原を使うなんて馬鹿馬鹿しい。そもそも切原は今のままでも十分強いじゃないかと必死に幸村に説得した。
だが幸村は頑として首を縦には振らなかった。何が相談か。奥歯を噛み締める。こんなの相談でもなんでもないじゃないか。きっともう、幸村の中では決定事項なんだ。真田を小さく見上げる。大丈夫だ、真田なら。なぜなら切原は、彼が手塩にかけて大切にかわいがっている後輩なんだ。そんな後輩が賭けに使われるだなんて、真田が許すはずがないのだから。
だが真田の下した決断は「分かった」だった。ねえ、真田。どうしちゃったの????幸村の傍にいすぎて頭おかしくなっちゃったんじゃない?????大真面目に尋ねると頬を叩かれた。幸村の決断はいつだって正しい。彼の目はそう私に言っていた。ああ、そうかよ。きっともう、真田も深海に沈んじゃったんだ。「幸村の決断はいつだって正しい」????馬鹿じゃないの。あんた、その判断のせいで関東大会潰れそうになってたじゃない。幸村が戻るまで無敗で帰りを待つといって、自分で自分の首を絞めて。泣いてやりたかったけど幸村の前で泣くのは癪だったからぐっと堪えた。




そして迎えた準決勝。幸村の狙い通り、切原は覚醒した。ドプン。また一人、海に沈んだ音が確かに私の耳に聞こえた。





ついに今日は決勝戦。シングルスワンは真田と手塚くんの試合だ。順調な試合運びだった。途中までは。


「…真田」


幸村が真田を呼び止め、彼は真っ直ぐに幸村の目を見る。お互い無言だったけど、幸村の言わんとしていることになんとなく察しがついた。でもそれはさすがに真田のしないことだった。だから安心して身構えていた。


「真っ向勝負を捨てろと言うのか…?」
「……そう、全ては立海3連覇の為だ!!」


切原が私の肩を叩き「副部長どうするんすかね」と聞いてくる。知らない。でも多分、真田はそこまで馬鹿じゃないからやらないでしょ。肩を竦めながら答えるとそうっスよね、と笑う。
そう、真田は捨てない。真っ向勝負は彼の支柱なのだから。そこまで真田も堕ちてはいないだろう。そんなことを考えていた私のほうが馬鹿だったのだ。






彼は真っ向勝負を捨てた。そこにあったのは、私の知る真田ではなくて正真正銘、「神の子」の犬と成り下がった真田の姿だった。







140701.
ミュージカルを見返してふと思いついた突発ネタ@