dream | ナノ



ベッドと床の、ちょっとした隙間に手を入れてしまったのがそもそもの誤りなんだろう。かさりと手に紙のようなものが当たり、それを引っ張り出すとどうやら雑誌らしい。その表紙には際どいポーズをした女の人。
一瞬何だこれは、と凝視してしまったが考えるまでもなくそれは俗に言うエロ本というやつだと気付いた。まあ旭も男子高校生だし一冊くらい持っていても何ら問題はないんだろうなと思った。ここは幼馴染として、そして恋人としてそっと元の場所に戻しておくというのが道理というものだろう。

私はそれを元の位置に戻そうとしたが好奇心が勝ってしまい、結果的に言うと表紙を開いていた。うわ、旭のやつ、こんなのが好みなのかと少しだけ顔が熱くなるのを感じていたら部屋のノブが空いた音がした。次の瞬間にはジュースを二つ持ってきた旭と私の目が合った。


「「あ」」


ハモった。悠長にそんなこと考えてたらしばらくの間があって、突然旭がうわああああと叫び(うるさっ)出した。ぽかんとしていると私の手からエロ本が取り上げられてしまった。
「な、何見てんだよ、名前!!」
「え、あ、」
そこでようやく事の重大さに気付いた。なぜなら私は幼馴染の、彼氏の性癖の片鱗を見てしまったのだ。しかも今冷静に考えたら割とアブノーマルだった、気がする。
「…随分とアブノーマルなご趣味をお持ちで……?」
「ち、違っ……!名前何で悟りを開いたような顔してるの?!違うから!これ俺のじゃないから!!」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ。西谷くんには言わないヨ」
「うわあああああ」
いつの間にかジュースを机に置いた旭は私の肩をがしりと掴む。そして違うから、違うからと連呼する。同じことばっか言うと説得力に欠けることを彼は知らないのだろうか。慌てる旭とは対象的に私はというと実に冷静だった。
「ほんと違くて、これ、俺のじゃなくて……!!」
「いいよ、いいよ。旭も高校生だもんね、男の子だもんね、ああいうの読むんだよね(アブノーマルだけど)」
「だから!!」
私と旭は付き合っているといえどまだ学生ということもあり、そういうことは一切していない。精々手を繋いだり、唇同士が触れるだけのキスをしたりする程度。それに不満があるわけじゃない。ない、けれど。
「こ、これ、大地の!だから!!」
「………澤村の?」
「そう、そう!!」
うわ、マジかよ澤村……。さすがに引くわ……ってなるとでも思っているのか、こいつは。んなわけあるか。澤村の性癖は至ってノーマルだ(噂に聞くだけだから本当かどうかは定かではない)。
「別にさあ、旭。したいならしたいって言いなよ」
「……?…………??!」
いつでもどうぞとばかりに旭のベッドに寝転ぶ。スプリングの音がぎしりと鳴る。毎回思ってたんだけどそろそろ替え時じゃない、このベッド?冷静ぶってそう言ってはみたけれど内心パニックだ。
私は一体何をしているんだ、馬鹿じゃないのか。でも今更引き下がれない。それに据え膳喰わぬは何とやらと言うではないか。旭はもう少し、肉食になってもいいはずだ。今の付き合い方に不満はない。ない、けれど。
「……さすがに一年も付き合ってんのにキスだけだとさあ、不安になっちゃうよ」
「……名前、」


悪い。旭が何に対して謝っているのか分からない。ただ、今日はもう帰れと言われてしまった私は、きっと嫌われてしまったのだろう。


140508.