ゴシップニュース
「ここだけの話なんだけど、隣のクラスの先生と同じクラスのAちゃんが…」
ウワサ話が大好きな女子高生たちが街中で話している。横目で神威くんをちらり、と見てみると女子高生なんて全く気にしてない様子。
「(不良校のトップと付き合ってるなんてバレたら噂になるかな…)」
「なに?」
私の視線に気づいたらしく不思議そうに綺麗な顔をこちらに向けてくる神威くんに、なんでもないと返し再び歩き出す。
「ねえ、あれなまえと同じ制服だよね。知り合い?」
ぎくっ、完全にそう顔に出てしまった。
まずいまずいまずい、こういう時の神威くんは何をしでかすか分かったもんではないのだ。なんとかして話題を逸らさないとと必死に策を考えていると何かを察したらしい神威くんに突っ込まれてしまった。
「ふーん。やっぱりそうなんだ。なんかこっち見てるし、友達なんじゃないの?」
「い、いや、いちいち構わなくていいよ!時間もったいないし、行こう?」
「…そうだね、行こうか」
…あれ?何だか釈然としない間だけどとりあえず一安心みたいだ。気分屋の神威くんのことだから、きっとさして興味を引かなかったのだろう。これで明日からも普通に学校生活が送れる!と安心しきってつい肩の力が抜ける。
「あ。なまえ、チョコいる?」
「へ?チョコ?」
「うん。ポケットから出てきた」
「何それいつの!?」
「いらないなら捨てるけど」
「ええ!新品じゃん!食べるよ!」
言った瞬間ニヤリ、と神威くんの口元がいつも以上に大きく弧を描くのが分かった。
そのままチョコを口に含むとゆっくり私に近づいてくる端正なお顔。
「え、ちょ、神威く…っん、」
いきなり神威くんにキスされたかと思うと口の中に甘いものが入り込んできた。やけに長いキスはいつまで経っても終わらなくて、更には神威くんの舌まで入ってきて、チョコを溶かすように口内を動き回る。
「っは、かむい、く…っも」
人の視線が気になって仕方ないのに神威くんは一向にやめようとしない。もう頭にはくちゃくちゃと嫌な音、それからびっくりするくらい甘いチョコの味しかない。
「…ん。そんなヤラシー顔していいの?友達、見てるケド」
神威くんの指差す方には案の定キャーキャー言いながらこちらを見ている同じ制服を着て同じ色のリボンをつけた女子高生たち。
あー、終わった。どういう顔をしてどんな返事をすればいいのか分からなくて、じと、と睨みつけると何故か不機嫌そうな顔をした神威くん。
「なんか嫌だね?」
むっ、とした顔でざわつく周りの女子たちをを見ながら言われましても…。というかしでかした本人がしかめっ面になるのはどうなんだろう。
私はもう明日の弁解について考えるしかないというのに。
「飽きちゃった。行こっか」
「もう…晩ご飯おごってよねばーか」
「え?誰に口聞いてるのかな?」
「ばかむいくんだよばかむいくん!ばーかばーか!」
この後神威くんに無理やり担がれ入ったファミレスで死ぬほど奢らされたのは言うまでもないし、翌日の学校では死ぬほど質問責めにあったわけだ。