少女、鬼を娶る


「とーしろー!」



静かな部屋いっぱいに響き渡る男所帯に不釣り合いな甲高い少女の声。
スパァンッ、と勢いよく開け放たれた襖をチラリと横目で見た後書類に走らせていた筆をゆっくりと置く。



「なまえ…何回も言うようだがお前は…」



いつものように一言二言、いや三言ほど小言を並べてやろうと開きかけた口を、少女の顔を見て思わず閉じて一言、



「…なんだその顔」



何故だか先ほどから終始笑顔のままなのだ。
”何か良いことがありました”と顔に書いてある。



「へへっ、おかえり!十四郎!」



ぱあっ、といっそう笑顔を濃くした顔はとても愛らしい。駆け寄ってきた少女を見て「あぁそうか」と1人納得して緩みそうになる口元をグッときつく結ぶ。


思えば数ヶ月ほど顔を合わせていなかったのだ。きっと寂しかったのだろうと悟り、つい嬉しくなってしまう。普段のペースからいけば月に1度はとっつぁんに連れられ土方のところ、もとい真選組に預けられるのだが、仕事が立て続けに入ってしまいしばらく屯所を離れていたのである。



「久しぶりだななまえ」


「十四郎はお仕事ってゴリさんが言ってたから寂しかったけど良い子に待ってたんだよ!」


「そうか、遅くなって悪かったな。あと近藤さんはゴリラじゃねぇぞ、分かったか?」



うん!と返事はするものの次に来た時にはまた同じことを言うことになるのだろうから困ったものだ。
既に彼女の興味は机の上の小包に向いているようで、今にも包装紙を破り捨てそうになっているなまえから一旦それを取り上げて、自分の隣に座るように促す。



「なーに!これ!」



中身はそろそろなまえが来るであろうことは分かっていた為用意していた茶菓子だ。厳密に言えば、土方がどこの茶菓子が美味いなんてことを知るわけもないので用意したのは山崎なのだが。



「甘いにおい!おかしだ!」


「バレんのはえーな、おい」



まだ何も言っていないのに勝手に菓子の匂いを察知して飛び上がるなまえに思わず笑みがこぼれる。



「食べていいの!?」


「あっても俺は食わねぇからな。好きなだけ食ってけ」


「やったー!ありがとう十四郎!」



鬼の副長と呼ばれる彼も、数少ない癒しとも言えようこの少女にはやはりついつい甘くなってしまうのだ。
そんななまえもまた、土方に心底懐いているようで、この2人の奇妙な組み合わせは成り立っている。



「私ね、大きくなったら十四郎をお嫁さんにするの!」


「ばっ、逆だろ!アホかお前は!」


「土方さんロリコンだったんですねィ。気持ちわりーや死ねばいいのに」



何の脈絡もなくもぐもぐと饅頭を頬張りながら言ったなまえの言葉に土方がひどく取り乱してしまい、見当違いな返しをしてしまったのをたまたま通りかかった沖田に見られ、隊士たちに言い触らされたのは余談である。

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