君のずるさに溺れる*


「”銀さんとだったら泣かなくて済んだのかもしれない”」



俺が土方との話を聞いてやったあと、なまえは必ずそう言う。そして優しい優しい銀さんはこう返すわけだ。



「”お前が好きなのはあいつだろ、そんなこと言ってやんなって”」



いつから俺はマゾになったんだ。なまえに言っているのではなくただ自分に強く言い聞かせているだけの自己満足だ。こんなの、エゴだ。



「じゃあよォ」



なまえは返事の代わりに俺の服をきゅっ、と握った。指先から伝わる微かな震えで今回は相当弱っているんだなと分かる。



「そんなに辛いなら、俺が忘れさせてやるよ」



きっとなまえは賢いから、この言葉だけで言いたいことは理解できるはずだ。
理解して尚、なまえが俺を求めてくれるならそれに応えようじゃないか。それが俺にとってもこいつにとっても、今の最善策。



「わたし…銀、さん…」



息を飲む音が耳の奥に響く。それが俺のものだったかなまえのものだったかは定かではない。


もう一押しだ。


汚い感情に飲まれてしまえばもう止められない。あとは落ちていくだけだ。
あー、俺はどこまで嫌な人間になるんだろう。どこまで歪んでいくんだろう。自分の行く末を想像して少しぞっとした。まあ今更気にすることでもないのだが。



「俺が、お前の逃げ道になってやるよ」



な?と顔を覗き込んでやれば、ゆっくり、ゆっくり、なまえが頷くのがわかった。
俺はずるい。でも一番ずるいのはなまえだろ?



「っ、あっ、銀さ…っん、」


「っは、誰のこと考えて抱かれてん、だか…っ」



ずるさに振り回されてるのは紛れもなく俺だ。だけど、そのずるさに自ら溺れてるのも紛れもなく、俺。
いつかこいつは俺から離れていくんだろうか、そんな日が来るくらいならいっそ俺もなまえも死んでしまえればいいのに。このどす黒い感情でしか今を生きていると感じられなくなったのはいつからだろう。



「あーあ、俺、こんなだったっけなぁ…」



行為が終われば安堵したように眠りこけるなまえに思わず頭を抱えてため息が出る。全部アホらしくなるんだ、こんな毎日に。

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