狩り


「どの層を狙ってんの それ」
「え、なにが?」


ぼーっと弁当の箸を咥えたまま山崎を眺めてそう零すと案の定 訳が分からないと言いたげな返事が返ってきた。


「だから その何の変哲もない顔」
「イケメンじゃないってか イケメンじゃないって言いたいのか」
「そんなこと言ってないよ」
「言われなくても分かってるよ」
「だから違うったら」


山崎ごときに思考を割くのもなんだか癪だなと思い直し、ハンバーグを口に運ぶ。怪訝そうに私を伺う二つのまあるい目は相変わらず澄んだ色をしていて 変な気まずさを感じたので慌てて視線を逸らした。


「別に何を狙ってこんな顔してるわけじゃないよ」
「そりゃそうだよね」
「何の意図があってそんな意地の悪い質問してくんの!?」
「何となく。山崎の声 響くから大きい声出さないでよ」
「え、ごめん」


急にしゅんとなった肩と頼りなさそうに下がった眉にどきどきと心臓が音を立てた。別段 自分がサディストだと思ったことはないが、山崎と話しているとどうも口調が強くなってしまう。何を言っても返事をしてくれるし 何をしても返してくれるからついなのかもしれない。きっと優しい彼のことなので私を突き放すことなんてないと高を括っているのだ。


「ハンティングされてる気になるの」
「は…?」
「山崎を見てると」
「みょうじさん 何言ってんの」
「山崎を見てるとどきどきする」
「は…!?」


二回の「は」をそれぞれ違うパターンで繰り返した山崎はそれぞれ表情も違っていた。一回目はまたもや訳が分からないと言いたげな顔をして、二回目は耳からどんどん真っ赤な顔になっていった。なんだか気まずくて逸らしたままだった視線をまた山崎に向けると今度は彼に逸らされてしまって少しムッとする。


「山崎は私を狙ってるんでしょ」
「何その言い方!狙ってるとかそんなんじゃ…!」
「いや狙ってる。私を狙ってのその顔なんでしょ」
「…地味顔フェチなの?」
「山崎フェチ」


どうせもう合わせてくれないであろう視線は弁当箱に向けながら淡々と返すと正面でむせる苦しそうな息が聞こえる。どうやら少し驚いたらしい。


「なんで今日はそんなからかってくるの やめてよもう」
「からかってないよ」


お茶を差し出してやりながら涙目の山崎を見てやっぱり胸が苦しくなった。もしこのまま付き合ってと一言告げれば優しい彼は突き放さずイエスと答えてくれるのだろうか。ふと悪戯心にも似たそんな思い付きが過るが これ以上食べ物を喉に詰まらせて死なれてしまっても困るのでもう少しゆっくり距離を詰めていこう。


「あ、間接キス」


変なところにお茶が入った!と騒ぎ出す山崎の背中をよしよしとさする未来が見えた気がしたが深くは考えず口に出すと やはり思った通りになったので、その様子がなんだか嬉しくて笑みを深めた。

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