夏色


「おいクソガキ」
「お前がな」
「いやお前がな」


いきなり人をクソガキ呼ばわりしたクソガキ沖田に間髪入れず返事をするとそのまま引用した返事が戻ってくる。引き出しの少ないやつだなと変に勝ち誇った気になりながら まだ覚醒しきらない脳を叩き起こして瞼を開くと淡い栗色が視界いっぱいに広がった。


「近いんだけど」
「近寄ってんだから当たり前だろィ。頭湧いてんのか」
「お前がな」
「いやお前がな」


デジャヴを感じるには少し早すぎるほど 先ほどと大して変わらないやり取りをして、突っ伏していた机から身体を剥がすとパキパキと関節が鳴った。ずいぶんと長いこと眠っていたらしい 外はもう橙色に染まりきっていて、教室には私と沖田しか残っていないようだ。


「なんで誰も起こしてくんないかなぁ、もう」
「起こしてやっただろーが」
「遅いわ、ばーか」
「やっぱ永眠しろよお前」
「お前が…なんでもない」


これ以上引き出しの少ないやり取りを繰り返してやるものかと寸でのところで言い留まった言葉をごくんと飲み込む。何故か舌打ちをした沖田に内心イラっとしつつ鞄を手に取り立ち上がると首根っこを掴まれ後ろにつんのめった。


「な、っにすんの!」
「礼くらい言えねーのか クソ女」
「ドーモアリガト」
「もっと豚っぽく」
「ブヒブヒー」
「バカにしてんのか」
「あんたが言えって言ったんでしょうが」
「俺にも分かるように言えってんだ」
「じゃ豚にでもなれば?」


埒があかない、そう思った私は構うもんかと後ろから襟を掴まれたまま歩き出すと意外とあっさり手を離され 思わず拍子抜けした。首だけ振り返って沖田を見てみるとしれっと自分も鞄を持ち 付いてきていたのでどうやらこのまま一緒に帰るらしい。


「チャリの鍵無くした」
「はぁ?それで起こしたわけ」
「別に 一人で乗って帰っても良かったんですぜ。感謝しやがれ」
「ちょ、それ私の鍵!」


ぷらーんと沖田の指に引っかかったまま間抜けな顔をしてこちらを見ているストラップは何度見返しても私の物だった。こいつ私が寝てる間に勝手に取りやがったな。


「置いてかれたくなかったらお前が前な」
「クソ沖田」
「はんっ、なんとでも」


悔しさで歯を食いしばりながらも、昔とは比べものにならないくらい重たくなった沖田を後ろに乗せて自転車を漕ぎだした。夕方になったからといって ちっとも涼しくなりやしないこんな夏は大嫌いだ。

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