どうしようもない


「むかつくの、そういうところも全部全部全部」


いつだって外面ばっかり立てて、私には「悪かった」の一言で終わらせる。そんな単純で簡単な一言で私の怒りは収まってなんてなくて、でもこれ以上彼と過ごす時間を無駄にもしたくなくて どうしようもない気持ちだけを奥底に仕舞ってグッと感情を飲み込むのだ。


「悪かった」


ほらまた。そんな薄っぺらい謝罪は聞き飽きたっていうのに どうせ悪かっただなんて申し訳ないだなんて微塵も思ってないくせに どうしたって貴方はいつもそう。今日ばっかりは二言三言の小言じゃ気持ちは静まらなくて、言ったって聞いてくれないとしても全部ぶつけないと頭がおかしくなってしまいそうだった。


「銀ちゃんいっつもそれだよね。私そんなに聞き分けのいい彼女になんてなれない」
「だから 悪かったって」
「悪かったと思うならどうして連絡のひとつもしてくれないの?心配だってするし、それ以前に今日は絶対帰って来てくれるって約束したのに!」
「だーから、言ってんだろ その場のノリっつーか付き合いっつーかさァ」
「浮気でもしてるんでしょ」
「はあ?」
「私なんてもうどうでもいいんでしょ」


溜まった涙が溢れないよう 必死に睨みつけるように銀ちゃんの目を見た。逸らさず私を見返す視線は呆れの念を含んでいて、ついにはため息まで吐かれる。


「…あーもうめんどくせェ」


がしがしと頭を掻きながら私を置いて寝室に向かう背中を見ているとぎゅう、と胸が締め付けられた。面倒くさいってなに 私がこんなに言っているのに何も分かってくれないのはそっちじゃないか。

銀ちゃんは口下手で 愛を囁くなんてことは滅多になくて、言わなくても伝わるだろってきっとそう思ってることは分かっているけど 分かっていたってわざわざ口に出して伝えて欲しい時だってある。飲みに行くのも絶対にだめだなんて言っていないし、ただ晩ご飯はいらないとかだいたい何時には帰るとかそれくらいの連絡はして欲しい。たったそれだけのことなのに何故何回言っても分かってもらえないんだろう。挙句面倒くさいだなんて 心配してお味噌汁を作って夜中まで待っている私の気持ちなんて銀ちゃんにはきっと分からないんだ。


「もういい、出て行く。銀ちゃんなんて大嫌い」
「あーっそ。俺寝るわ」


出て行くなんて一体何回目の脅し文句だろうか。銀ちゃんもきっと私が出て行かないことなんて分かってるからこの態度なんだ。一回本気で実家にでも帰ってやろうかと思ったけれど 結局怒りに任せて近所のコンビニ辺りまで歩いたところでふと我に返って、甘いものを買って帰って今度は私が「ごめんね」と何故か謝る番になる。いつものお決まりだ。

そうしたら決まってきつく抱き締められて 二人で並んで眠るんだ。その頃にはもう私の怒りなんて頭の隅の隅まで追いやられていて、ただ抱き締めてくれればそれで全部許してしまうのに どうして最初からそうしてくれないのだと逆にまたよく分からないもやもやが喉を詰まらせて そんなことを考えている内に意識は遠退いていく。分かってますよ 恋人なんてこんなもんなんでしょう。分かってるけどこれを繰り返して繰り返して何年も一緒にいてしまう 最終的には許してしまう私が馬鹿なんでしょう。


「銀ちゃん 大嫌いなんて言ってごめんなさい」
「俺も悪かったな。明日飯でも行くか」
「うん」


もうこの感情は好きとか愛してるとかそんなものでは表せない 腐れ縁に近いような依存に近いようなものなのだ。どうしたって どうしようもない。

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