バイビーベイビーサヨウナラ
「また、どこかで」
そう言って妖しく笑いながら女が落ちていく様を俺はただ見ていた。
屋上に呼び出すなんてまたベタな、そんなことを思いながらだらだらと階段を上った。
「タバコ、持ってない?」
「いい加減やめないと死ぬぜ、あんた」
女はため息を吐いた。小さく、高杉のチンカス野郎と言われた気がしたが聞こえないフリをした。
「ヘビースモーカーに吸うなとはまた鬼だねチンカス高杉」
女の子には優しくってママに習わなかった?なんておどけたように言うこの女は本当にたったの2つ上なのだろうか。
「まともな女扱いされたかったらチンカスとか言うんじゃねーよ」
「はは、それもそうだね」
この歳で既にヘビースモーカーな上に口は最高に悪い。そして何より、纏っている空気が他と違う。何もかもを諦めているような気だるさと楽天的な思考。一言で言うなれば「変な奴」。
「じゃあ高杉、何か持ってない?」
「飴」
「子供だなぁ」
「いらねーのかよ」
「頂きます」
俺からふんだくるように飴を取り、口に含むとスカした顔でメガネを外し投げてきた。壊れたらどうする、そんな言葉も飲み込むくらいズン、と思い空気。そして女はさして高くもないフェンスに向かって歩き出した。
「高杉、」
「なんだよ」
どこかで嫌な予感はしていた。電線に止まったカラスが一鳴きしたのを合図のように女は笑った。
「また、どこかで」
そう言って妖しく笑いながら女が落ちていく様を俺はただ見ていた。
女は空に向かって両手を広げ、今までにない程清々しい顔で消えていった。最後の言葉と、俺と最後に会った意味は分からないけれど、ふと気付いたのは俺はこいつが好きだったのかもしれないということだけ。
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バイビーベイビーサヨウナラ / saiB