私のハッピーエンド
美人で、家は金持ちで、性格も特に問題はなし、ただ少し高飛車だがそれがよりいっそうお嬢様らしくてちょうど良いとさえ言えるだろう。まさに調教のし甲斐がありそうな「お姫様」。
時として警護中にこんなガキの子守りまで引き受けなければいけないというのは実に面倒だ。そして大人しく黙って座っててくれりゃ昼寝でもできるというのに何故こいつは俺に声をかけてきたのか、皆目検討もつかない。
「それで、もううんざり」
「うんざり?」
「可愛い可愛いと言って近づいてくるのは下衆な男と、媚びたがる奴らだけで疲れたの!」
無視しておくわけにもいかず、多少の暇つぶし程度のつもりでこうして話してなんだかんだと数時間が経ってしまった。話していて分かったことは、思っていたよりも子供らしく(と言うか年相応)で、夢見がちなロマンチストであること。そしてやっぱり少し高飛車なことくらいだ。
「王子様でも待ってんのかィ」
アホな女だな、そう思いながら俺が問えば、意外にも彼女はノーと答えた。
「王子様って言うより…そうだなぁ、連れ去ってくれる悪役とか?」
どれだけ祈ってもまだ来てくれたことはないけど、そう付け足して笑った女の目はどうやら冗談で言っているわけではないらしい。
「あとは、うーん、キスで目を覚まして欲しい、なーんて」
「ちょっとクサすぎやしやせんか…」
「うるさいなぁ、あんたなら分かってくれると思ったんだけど」
このガキは俺をロマンチストか何かと勘違いしているのか。ロマンチストとは程遠い気が狂った野郎だと周りからは評判(と言っていいものか)の俺に向かって、つくづく可笑しい女である。しかしこの数時間を共にしただけの彼女に情が湧いた、というのも変だが何だかこのまま放って帰っては面白さに欠ける、というかつまらないような気がしている。
「さっきの話しだが、連れ去ってくれるサディスティック星の王子様なんてどうでさァ」
「そんなの理想の王子様じゃない」
「じゃあ、そうだな、俺なんかじゃ役不足ですかィ」
頭がおかしいんじゃないか、そう言われても仕方ないような事を言っているのは分かっているし、実際言われ慣れている。それでもこいつが差し出している俺の手を取ればハッピーエンドというわけで、後は遠く離れた場所へ連れ去ってしまえばいい。
「悪役でも王子様でもないなんて面白いこと言うんだね。じゃあ、私はあんたに連れ去ってもらおうかな」
やっぱりこの女は阿呆だ。そして、こんなよく知りもしない女の為にこんな計画を立てるなんて俺はもっと阿呆に違いない。