私なら、
久しぶりに幼馴染の退からかかってきた電話。もしもし、と声をかければ小さな声で私の名前を呼ばれた。
「なまえちゃん…?」
呼びかけても返事はなく鼻を啜る音だけが聞こえる。きっと何かあったのだろう、黙って退が話し始めるのを待つ。
「…ごめん」
「大丈夫だよ、落ち着くまで待ってるから」
悩みを聞くことは前までよくあったけど泣いているのを聞くのは初めてだ。
「所詮、遊びでしょって」
「言われたの?」
「…うん」
「誰に?」
「彼女…」
ゆっくりだけど話し始めた退はまだ鼻を啜っている。元々私たちが会ったり長々と電話をしなくなったのもその彼女に誤解されるのを防ぐ為だったけれど、彼女の方は遊びのつもりだったらしく退はフラれた、という話しらしい。
「俺は、」
「うん」
「すごく、本当に好きだったし大切だったんだ」
「そうだね、分かってるよ」
泣きながら話す退はお世辞にも男らしいとは言えなかったけど、私を信用して必要としてくれている気がして不謹慎ながらも嬉しくなった。
「まだ好きなんでしょ?」
「分かんないや、もう」
「そっか。それで退はどうしたいの?」
「どうって…?」
「これから。すっぱり別れちゃうの?」
「う、ん…別れるよ」
私は最低な奴だ。今、退の弱みに付け込もうとしている。確信はある、退は今なら私に落ちる。息を吸い優しく名前を呼んで、あとは彼に囁くだけ。
私なら、君を泣かせることも、悲しませることもないよ。