君の体温


君と出会った春と、君と別れた春。
どちらも赤やピンクや黄色の花が咲いていた。彼女はその花を見て、最初も最後も笑顔だったように思う。




「退くん、この花の名前知ってる?」


「よく見るけど名前は知らないなぁ」


「私も知らなかったんだけどね、気になって調べてみたんだ」


「へぇ、何の花だったの?」




近所の小さな公園で話した内容をぼんやり思い出しながら見慣れた街を1人で歩く。ほんの少し前までは君と2人で歩いた場所も、そばにいた君の感触も無くしてしまって、胸には切なさだけが残る。
出会った時も、告白した時も、初めてのデートの時も咲いていた花を「私たちの花だね」と照れたように言った顔や声や些細な動き、全部全部覚えているのに。




「何だったかな…」




あぁ、そうだ。確かそう、




「スイートピー」




春が咲いて、夏が暮れて、秋が眠って、そして今冬が明けようとしている。あの頃咲いていた花も、あの時満ちていた月も、今では枯れて消えてしまった。寂しくて、温もりが欲しくて繋いだ手を僕らは「愛」なんて呼んだんだ。




「寂しい夜も、2人の朝も、ずっとずっと一緒だよ」


「どうしたの、急に」


「なんでもないよ、ただ退くんと幸せに過ごしたいなって思ったの」


「もしも、俺と君が離れちゃってもまた、」




もしもなんてさ、口にしたって変わらない未来があるだけだと気づいているのに、俺は諦めきれなくて君に手を伸ばした。それに応えようとまた君は悲しい嘘を吐くんだろう。ここにいたこと、君の体温、全部忘れていつか冷たくなって、ただそれだけさ。




さよなら、愛し君よ
忘れないなら僕から消えてよ








--------------------

君の体温 / クワガタP

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -