ピンポーン
お昼も近いためか美味しそうな匂いがあちこちからする中、インターホンの音が鳴り響いた。しばらくしてバタバタと慌ただしい音が聞こえ、出てきたのは黒髪の瞳孔が開いた男性。
「あ、初めまして」
「お、おう…あんた誰だ…」
「隣の部屋の者です」
「ああ、隣の。挨拶なら家主の奴が後から行くと思うからその時に、」
「いや、違います」
即座に否定して缶ジュースの山を手渡す。
「挨拶は全然いつでも良いんですけれども。とりあえず、これを渡しに…」
「は…?ジュース?」
完全に目が点になっている瞳孔さん(仮名)に一体何と説明すればいいか分からず無言で見つめ合って数秒、部屋の奥から声が聞こえた。
「土方さーん、早くしてくだせェー」
「あーちょっと待ってろ今取り込み中だ。っつーか普通こういうのお前が出るべきなんじゃねーの?」
「ひ、ヒジカタさん…!?」
どうやらこの瞳孔様(恐いから様にギアチェンジ)がヒジカタコノヤローさんなようだ。まさかボスが直々に出てくるとは思わず油断していた私がバカだった。ここは何も知らないフリをして帰ろう。殺される前に帰ろう。
「あ?なんだあんた俺のこと知って…?」
「ししし知りません!全く!ごめんなさい!」
「いや、え?何で謝ってんだ」
「そんなあの、活動内容までは知りませんので許してくださいごめんなさい!」
「何のことかは分からんがとりあえず頭上げてくれ…」
最近の極道の方は優しそうな顔で優しそうなことを言うのか。これはうっかり騙されかねないぞ。(あ。後でお母さんに電話で忠告しておかないと)
「あー、多分そのジュース総悟が買って来るはずだったやつだよな?あんた知り合いか?」
死亡フラグが立った。これはこのジュース(という名の何かのイケナイ物質)について知ってしまった私を殺す為だきっと…!明日にはバラバラ死体で…
「ご、ごめんなさい何も言わないので許してくださいごめんなさい!」
命の危険を感じ、人様の家の前でなりふり構わず土下座をしている私は端から見たら変な奴に違いない。
「は、はああ!?なんだあんた人ん家の前で何やってんだ!おい、総悟ちょっと来い!」
「なんでィ今忙しいってのに……うわ、土方さん女に土下座させてやーんのー!」
「俺は何もしてねーよアホ!何とかしろ!」
頭の上で叫ぶ声が聞こえる。ああ、もうダメだ殺される。そう思いながら静かに目を閉じた。
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