友人からのアドバイスを着々とこなしていくものの一つ二つ三つ四つ五つ…と失敗したところでさすがに総悟くんもおかしいと思ったのか深いため息が聞こえた。


「お前、何がしてーんだ」

「いや、あの、何がとかじゃないんだけどね」

「誰の入れ知恵でィ」

「ななななにが!?」


じろりと総悟くんが睨んだ先にはカンペ用に握りしめたメモが。誤魔化そうと目を泳がせたけど、これ以上奇行を続けるのは許さないとばかりにメモを取り上げられた為諦めた。


「既成事実大作戦」

「へ、へへへ」

「へへへじゃねぇ」

「ごめんなさい」

「ようするにだ。俺と既成事実作りたかったって話かィ、ん?」

「怖いよ総悟くんこめかみピクピクしてるよ!謝るからその笑顔やめて!」

「お望みなら相手してやろーか?」

「ひえ、」


自分の部屋であるかのようにパチ、と寝室の電気をつけて微笑む総悟くんにそういう意味じゃなかったと一生懸命伝えるもどうにも話を聞いてくれない。


「落ち着いて話せば分かるよ総悟くん!」

「十分落ち着いてまさァ」

「そうだね総悟くんは落ち着いてるね!」

「話してぇならこっち来い」

「こわい」

「別にお前みたいな色気皆無の女に手なんか出さねーよ」


それはそれで失礼だな!と憤慨しているといいから座って少し話そうと、我が物顔で座っている総悟くんの横、つまり私のベッドをポンポンと叩かれた。さっきとは違ってからかっているような様子ではないし、まぁ怒っていないなら落ち着いて話せるかと遠慮がちに端っこに座ると遠いと怒られる。いきなりグイッと引かれた手にバランスを崩し倒れこむと真上に総悟くんの顔があった。うわーベッドでよかった痛くない、なんて呑気に思っていると総悟くんの顔がゆっくり近づいてきて、


「まままままま待った!待った!!」

「…あ?」


端整な顔がスローモーションのように近づいてきてこれキスされるのか、と理解した途端思わず手が出てしまい、総悟くんの顔面を両手で覆っているなんだか間抜けな状態になってしまった。総悟くんの表情は隠れて見えないけれど明らかに曇った声色が聞こえる。


「ダメだと思うそういうの!」

「既成事実大作戦」

「それは私が、っていうか私の友達が悪かったですごめんなさい!じゃなくてそういうのはこう、好きな人とするもので、」

「好きなんだろ俺のこと」

「そ、そうだった…!」

「じゃ、なんの問題もねーや」

「あああ違う違う、こういうの恋人同士がするものでしょ!」


はあ?と一層低くなった声で返され、付き合ってないし私たち、と続け様に言うと手を退かされ納得したような顔をしたあと真っ直ぐと目を見られた。


「意外と細けぇこと気にしてんな」

「気にするっていうか、」

「俺ァとっくに付き合ってるもんだと思ってやした。もちろん昨日から」


遮るように続けられた言葉にボン、と音がするかのように真っ赤になってしまって茹でダコみてぇ、と私の真上で笑う総悟くんにドキドキしすぎて心臓が破裂しそうだ。


「ま、今から俺ら恋人ってことで。よろしくお願いしまさァ」

「よろしくお願いしま、す…」


たった今理不尽で横暴なお隣さんが、理不尽で横暴だけど大好きな恋人になりました。


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