「で、彼氏が出来ましたと」

「彼氏、なのかな」

「それ以外なんかある!?」


いちいちもどかしい!と頭を掻き毟った友人に言われ、なんかごめんと謝る。付き合っているのかと問われるとなんとなく違和感があるのだ。昨晩あの後何事もなく部屋に帰って行った総悟くんと仲直り出来たことは本当に良かったと思うし、総悟くんに好きだと言われたのも私が総悟くんを好きだと気付けたのも嬉しかった。


「けど別に付き合うとかそういうのは話してないや」

「嘘でしょ…あんたそれ、好きだって言われて嬉しかったんだよね?」

「うん、すごく」

「あんたも好きって言ったんだよね?」

「うん、言った」

「それで付き合ってないの?」

「それは、分からない…」

「なんでよ!」


いきなり机をバンッと叩くと勢いよく立ち上がるものだから驚いて少し身体が跳ねたではないか。落ち着いて、と声をかけると余計に怒らせたみたいでこれが落ち着いていられるものかと大きな声で返された。


「あんなに先に彼氏作ってやるって豪語してた割にはいざとなると消極的で引くわ、そんなあんたに引いてるよ私」

「え、なんで私引かれてるの!?なんかこう初めてのことでどうしていいか分からないっていうか…だからこそ相談してるのにひどいよ!」

「もうそんなの両思いって分かりきってんだからとっとと付き合っちゃえばいいでしょ」

「だからその手順を教えて欲しくてですね…」

「手順なんかない!恋愛にマニュアルなんてないの!ノリと勢いでガッといっちゃうしかないの!」

「勢いでガッと!?」

「ガッと!」


と、経験豊富な友人が言うなら間違いないと信用してみるも、そんなノリと勢いなんかでどうにかなるものなのかとしつこく聞くと「いっそ行くとこまで行っちゃいなさい」とアドバイスをいくつかいただいた。


「…これ付き合うとか関係あるの?」

「勢いと言えば既成事実でしょ」

「既成事実って」

「いっそ行くとこまで行っちゃいなさい」

「さっきも聞いたよそれ」


私からのアドバイスは以上だと細かく文字が書かれたメモを握らされ、いつもとは違いいいからとっとと帰れと送り出された放課後。いつもより気合いの入った夕飯を作り、友人に言われた通りの準備をして総悟くんの帰りを待った。


ドンドンドンッ


「あ、おかえりなさい」

「…なんでィその格好」

「さ、寒いからはやく閉めて欲しいな…」


バタン、と玄関の扉を閉めて頭のてっぺんから足先までしげしげと私を見た後に言われたのはお馴染みの「バカじゃねーの」だった。


「またバカって言った!」

「いや、こんな時期にそんな格好してるやつ見たことねぇし」

「…ちょっと部屋が暑くて」

「寒ィけど」


友人からのアドバイスその一、いつもよりだいぶ薄着で出迎えろ。


「大根足晒して何してんだ」

「大根足…!」

「服もヨレてんぞ」

「ヨレてるんじゃなくてそういうのなの!」

「貧相な鎖骨見せびらかされて俺ァどう反応すりゃいいんでィ」


こんな短いの真夏でも履く日を選ぶわ、というくらい露出された足と、胸元の空いた服を見て顔をしかめられたのだけど、いっそ清々しいほど失礼だ。これぞいつもの総悟くんという感じはするけどなんだかちょっと涙で前が霞むよ私。


「もうあの、これ以上言われたら泣いちゃう私。とりあえず夕飯食べよう頑張ったから」

「パーティかよ」


友人からのアドバイスその二、あからさまなくらい張り切った食事でもてなせ。


「はは、実は料理得意なんだよねー」

「嘘つけ焦げてんぞ」

「たまたま失敗したの、今日は」

「いつも田舎の母ちゃんみてーな晩飯だろォが」

「うぐ……それは仮の姿で」

「モンスターかお前は」


友人さん、このままじゃ全然成功する気がしないですよあなたのアドバイス。


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