「んえ!?」
「告白、してんのかって聞いてんだけど」
「こ、告白のつもりは…!」
自分で言ったことを思い返し一気に顔に熱が集まるのがわかった。引き止めるために玄関先でとっさに掴んだ総悟くんの肩から慌てて手を離すと、今度はこちらに真っ直ぐ向き直った総悟くんが私の肩をガッチリと掴んで改めて問われた、今お前は俺に告白をしたのかと。
「そういうのじゃなくてこう!このままじゃもう会えなくなっちゃう気がしてそれでせっかく仲良くなったのに寂しいなって思ってそれで、それで!」
「ふーん。じゃ、俺の片思いってことで」
「そうそう、そうなる、ね…?え?」
「てっきり今の言い方ァ俺のことが好きだってことかと思ったんだがねィ。ちげーなら俺の片思いってことだ」
「片思い、とは…なんですかね…」
「鈍いのか馬鹿にしてんのかどっちだ。答えによっちゃ死刑」
これ以上小っ恥ずかしいこと言わせんのか、と肩を掴んだ手に力を込められて総悟くんの耳もほんのり赤くなっていることに気づいた。むしろ今私が告白されているのか、といくらこういうのに疎い私でもさすがに理解するのにそう時間はかからない。頭では分かっているのだけど何と返すのが正解なのか分からなくて金魚のように口をパクパクしたまま固まるしかできなかった。
「はぁ、お前本当料理のレパートリー少ねーな」
固まったままの私にため息を吐いたと思えば先ほどまでの空気はなんだったのだと言いたくなるほどあっさりとテーブルに向かい直す総悟くん。今の一時私は夢でも見ていたのだと自分に言い聞かせ落ち着きを取り戻そうとお茶を一口。総悟くんは相変わらず何食わぬ顔でいつも通りというようにカレーを頬張っている。
「俺、お前のこと好きでさァ」
「ゲホッ」
ちょっとそこの醤油取って、みたいなノリで投げかけられた直球な言葉に蒸せ返る。頭がパンク寸前だ。
「総悟くん、なんかおかしくない…?すごい怒ったり好き、とかそういうの、とか」
「おかしいかもな」
先ほどとは違って自嘲するように笑った総悟くんが、自分でもよく分からないがきっとそうなんだと続けた。
「お前が見たことねぇような化粧なんざして、俺には目もくれず野郎の隣で笑ってんの見て馬鹿みてぇに嫉妬して、おかしいってことくらい自分がよく分かってんだ」
「…何それ、私試合してる総悟くん見て、かっこいいなあって思ってたのに」
「んなもん知らねぇ」
「総悟くんだって女の子にキャーキャー言われてた」
「あんなもん日常茶飯事でィ」
「なんか、やだなって思った」
「ふーん」
なんでこんな恥ずかしい会話をしながら夕飯を食べなければいけないのかは分からないけど、お互い全然遠慮なんてすることなく淡々と思っていたことを話していて、突っかかっていたものが全て取れたような晴れた気分だった。
「お前絶対俺のこと好きだろ」
「そ、それ自分で言うこと?」
「そこまで言われりゃ誰だって分かりまさァ」
「そうかも、しれない…」
首を捻り考えると確かにこれって好きなのかもしれないと初めて納得がいった。友人が豪語していた通り、出来るならたくさん一緒にいたいし、たくさん話もしたいし、目が合うだけでばくばくと心臓がうるさくなるのだ。ああ好きってこの感情のことを言うのかと思った途端、やけに嬉しくなって思わず口元がニヤける。
「何ニヤニヤしてんだ気持ち悪ィ」
「総悟くんも似たような顔してる」
「うるせーや」
こっち見んな、と頭に置かれた手にやっぱり先生の時とは全然違う気持ちが湧き上がってきて、ふと声に出してしまった一言。
「うん、私総悟くんのこと好きなんだと思う」
とにかくちゃんと伝えたくなって言ってみたけれどこれはこれですごく恥ずかしい。今更気づいたなんて、また明日友人たちに笑われるんだろうか。
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