銀魂高校を散策して数分、私の学校と比べると幾分か古そうな校舎ではあるが意外と敷地は広いらしく、中々剣道場が見当たらない。このままでは昼食の時間に間に合わないのではと思っていると涼しげに水場で顔を洗う黒髪が目に入った。


「土方さん!」


やっと見知った顔に会えた(先生は無駄話ばかりで役に立たないのでノーカウント)ことに嬉しさがあまり半ば後ろから突進するように背中を叩き声をかけると、いきなりのことに相当驚いたのか情けない叫び声が響き渡る。


「おま、お前なまえか」

「どもってますよ」

「アホかいきなり突進してくるからだろうが!」

「見知ったガン開きの瞳孔が目に入ったので嬉しくてつい…」

「後ろから瞳孔は見えねえだろ!俺の目はどこに付いてんだ!」

「ところでこんなところで何してるんですか?」

「そりゃこっちのセリフだ。お前他校生だろ」

「総悟くんに忘れ物を届けに来まして」

「総悟ならちょうど今試合中だな」

「土方さんはおサボり中で?」

「休憩だアホ」


眉間に皺を寄せ心外だというような顔をする土方さんにちゃっかりついて行き、無事剣道場まで案内してもらった。扉を開けると室内にたくさんの男男男…むわっとした熱気に包まれて一瞬にして真夏になったのかと疑うレベルだ。


「あれって総悟くんですか?」


沖田と書かれたゼッケンを指差すとそうだなと返され、少し試合を見ているとあっという間に決着がついてしまった。もちろん総悟くんが勝ったらしい。


「本当に強かったんだ」

「あいつは態度こそクソ生意気だが腕だけなら相当なもんだぞ」


素直にかっこいいなぁと感心していると何やら試合脇から黄色い声が聞こえてくる。「沖田くーん(ハート)」みたいな感じのキャーキャーした声だ。


「あ、あれは…」

「…腕と顔面だけなら相当なもんの間違いだったな」


認めたくはねぇが、と付け足し舌打ちを一つした土方さんの横からそっと総悟くんの様子を見てみるとまんざらでもなさそうな顔(というかやけに堂々とした態度)でタオルやらペットボトルやらを受け取っていた。それはそれはごく当たり前の日常であるような手慣れた動作だったのでいつもこんな感じなのだろうと伺えた。

涼しげな顔でたくさんのキラキラした女の子たちに囲まれる総悟くんを見て、なんだかモヤッとした気分を紛らわすように土方さんに話しかける。


「休日なのにみんなわざわざ応援に来てるんですか?共学こわい」

「邪魔にならねぇ程度ならってうちの主将が許可してんだ。俺からしちゃ十分邪魔だが」

「もしかして土方さんもおモテになられるのでございますか」

「あ?んなもんには興味ねぇが…もらえるマヨはもらっとくタイプの男だ」

「あ、モテるんだ」


これまたまんざらでもないような顔で端に寄せられた大量の黄色が透けたスーパーの袋をチラ見した土方さん。忘れかけていたこの男女の何たら、みたいな青春っぽさにこめかみの辺りが痛くなったけど高校生なのだからこれがきっと普通なのだ。私にはよく分からないけれど、かっこよくて爽やかで強い男子が部活で汗を流す姿に女子たちはキュンとくるのだろう。…確かに総悟くんは少しかっこよかったけれども。


「これじゃお箸渡せなさそうだなあ」

「お前箸なんかわざわざ届けに来たのかよ…」

「今日お弁当を作ったんですけどうっかり入れ忘れちゃって」

「母ちゃんかお前は」


先生と言い土方さんと言い人のことを母ちゃん呼ばわりするのはやめて頂きたいものだ。うら若き乙女だというのに。と、そんなことよりも総悟くんに直接渡すのは無理そうなのでと土方さんにお箸を託しておくことにし、剣道場を後にしようとしたのだけど、


「おいお前何黙って帰ろうとしてんでィ」

「げ」


悪魔に見つかってしまった。


/
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -